TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 イラク戦争反対デモに参加する映画スター

 2月15日、米英によるイラク攻撃反対のデモが世界60ヶ国で繰り広げられ、1,000万人が参加した。ニューヨークでも氷点下5度の厳しい寒さをものともせずデモは決行され、演壇には活動家としても知られる映画スターが次々と立ち、平和へのメッセージを訴えた。
 世界中で戦争反対のデモの日となったこの土曜日、時差により、デモはアジア諸国から始まり、次いでヨーロッパやアフリカ諸国、そしてニューヨークでも開催された。

 マンハッタンのミッドタウン東部にある国連本部ビルでのデモは、“治安上の理由”からニューヨーク市当局が許可を出さなかった。そのためファースト・アベニューの59丁目あたりから国連ビルの数ブロック手前の49丁目までが会場となった。

 国連ビルとは、ウェズリー・スナイプスの『アート・オブ・ウォー』(00)、マイケル・ダグラス&グウィネス・パルトロウの『ダイヤルM』('98)など多くの映画に登場する、あの青いガラス張りの高層ビル。
手製のプラカードと共に平和を訴えるデモ参加者
 その国連ビル方面に向かって人々は歩こうとしたが、1ブロックごとにNY市警による仕切り柵が設置されており、“マーチ”は出来ない仕組みとなっていた。それを見越していたデモの主催団体“ユナイテッド・フォー・ピース&ジャスティス”は、ゲストがスピーチをするためのメインステージを49丁目に、ステージの模様を映し出す巨大スクリーンとサウンドシステムを数ブロック離れた場所に設置し、ファースト・アベニューのどこにいてもスピーチが聞こえるように工夫をしていた。
 ステージには南アフリカ共和国のデズモンド・ツツ大司教といった世界的な平和活動家、2004年大統領選への立候補を表明しているアル・シャープトン師など地元ニューヨークの政治家、他にもミュージシャンや詩人など数々のアーティストが立ち、それぞれの方法で平和を訴えた。以下は主な参加者。
 リッチー・ヘブンスは、映画『ウッドストック』('70)にも登場するヒッピー世代の筋金入りメッセージ・ソング・シンガー。この日も代表曲「フリーダム」をシャウトした。
 俳優業と活動家としての活躍がほぼ同量?とも思えるスーザン・サランドンは前日から主催団体の事務所入りし、テレビ・ニュースのインタビューにも応えていた。

 往年の「バナナボート」のヒットで知られる歌手兼俳優のハリー・ベラフォンテも、強力な人権活動家。数ヶ月前に、今回の対イラク問題に絡めてコリン・パウエル国務長官を激しく中傷し、メディアを賑わせたことも記憶に新しい。“アメリカで白人と黒人の立場が逆転していたら?”というユニークなコンセプトの作品『ジャンクション』('95)では、黒人であるベラフォンテが裕福な会社社長、ジョン・トラボルタがその社長に仕える労働者階級の白人青年を演じている。
あまりの寒さに親子連れは少なかったが、それでもプラカードを掲げる子供もいた
 ニューヨーク・ブルックリン出身のコレオグラファー兼俳優のロージー・ペレズは、エイズ問題への長年の取り組みでも知られている。
 数年前に自宅のあるサンフランシスコから、当時大学生だった娘に会うためにニューヨークを訪れた際に“黒人だから”という理由でタクシーの乗車拒否に合い、それを社会問題として提起したダニー・グローヴァー。代表作は言うまでもなく『リーサル・ウェポン』シリーズだが、南ア共和国の元大統領ネルソン・マンデラを描いたテレビ映画『マンデラ』('87)や『フリーダム・ソング』(00)など、多くの黒人問題作品に主演し、またプロデュースも手掛けている。毎年2月は黒人史月間であり、先日もウーピー・ゴールドバーグとの共演で“白人地区に暮らす黒人弁護士夫婦”の葛藤を描いたテレビ映画『グッド・フェンス(原)』(03)がオンエアされたばかり。
特設ステージでスピーチをするダニー・グローバー(TVニュース画面より)
 極寒の中、10万人が参加した(主催者発表では50万人)ニューヨークのデモ。9.11テロ事件の恐怖を直接体験したにも関わらず、これだけ多くのニューヨーカーがイラク戦争に反対し、世界平和を望んでいる。


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