TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 第2回トライベッカ・フィルム・フェスティバル

 今年で2回目となるトライベッカ・フィルム・フェスティバルが始まった。9.11テロ事件で大きなダメージを被ったロウアーマンハッタンを活性化するために、ロバート・デニーロがついに重い腰を上げて始めた映画祭。今回はその模様をリポート!
 昨年は5日間で約150本の作品を上映、15万人を動員して地域に1,000万ドル以上の売り上げをもたらしたトライベッカ・フィルム・フェスティバル。これはグランド・ゼロから目と鼻の先にオフィスを構えるロバート・デニーロ主催のトライベッカ・フィルム・プロダクションが、トライベッカ地区を含むロウアーマンハッタン全体の経済をなんとか向上させようと始めた映画祭。

 今年はさらに規模を拡大し、5月3日から11日までの9日間で200本以上の作品を上映する。ガラ・プレミアは、レニー・ゼルウィガーとユアン・マクレガーが60年代ファッションをたっぷり披露してくれるロマンチック・コメディ『Down with Love』(03)と、マイケル・ダグラスとアルバート・ブルックスが新郎新婦の父親を演じるコメディ『The In-Laws』(03)の2本。
グランド・ゼロ付近のビルに描かれた、テロ事件からの復興を願う巨大な壁画
 アジア、アフリカ、ヨーロッパなど世界各地の作品も多数上映されるが、西側諸国では初の上映となるアフガニスタン映画2本の他、イラン、イスラエルの作品もある。

 ちなみに日本からは『ポケモン・ヒーローズ(邦題:劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス)』(03)、杉森秀則監督の『水の女』(02)が出品されている。 

 趣向を凝らしたイベント上映には、ドライブイン・シアターがある。ここで上映されるのは、ネット上で行われた投票“ニューヨークを舞台にしたもっともロマンチックな映画は?”で1位となった『恋人たちの予感』('83)。
トライベッカ地区のあちこちにバナーや看板が設置されている
 『An Evening of Chinese Coffee』(00)は、アル・パチーノが監督主演した作品だが、なぜか本人が一般上映を拒み続けていた、いわく付きの作品。その幻の作品が今回は、観客とアル・パチーノとのディスカッション付きで上映される。
 この映画祭は地域の活性化を一番の目的としているため、今年も昨年以上にファミリー向けのイベントが多い。子ども向けショート・フィルムや、エディ・マーフィ演じる失業パパが自宅で託児所を開く新作コメディ『Daddy Day Care』(03)などが週末に上映されるほか、家族で楽しめるストリート・フェスティバルも開催される。

 各作品の上映時には、スポンサーであるアメリカン・エクスプレスのCMが流されるが、ここではマーティン・スコセッシ監督がなかなかのコメディアン振りを発揮している。名監督でありながら甥っ子の誕生パーティのスナップ写真がうまく撮れず、アメックスのカードで追加のフィルムを買いながら、甥に「誕生パーティをもう一度やってくれ」と頼むというオチ。
子ども向けショート・フィルム上映会にやってきた親子連れ
 CM絡みでは思わぬアクシデントもあった。映画祭告知ポスターのモデルを努めた22歳の女優が、開催日直前に元恋人に射殺され、犯人も後追い自殺。なんともショッキングな事件だったが、遺族の希望でポスターは映画祭の期間中、予定どおりニューヨークの街角に貼られることとなった。
 このように様々な話題で彩られているトライベッカ・フィルム・フェスティバルだが、業界関係者からは「昨年は9.11からの復興というテーマがあったが、これからはサンダンス映画祭などに負けないよう、トライベッカ独自のカラーを打ち出す必要がある」との声が出ている。

 正直なところ、魅力的な作品が並んではいるものの、ニューヨークで撮影された作品が多いこと以外は、特に際だった個性は見られない。観客もほとんどはニューヨーカーだ。しかし、デニーロが信頼するビジネス・パートナーであり、映画祭のプロデューサーを努めるジェーン・ローゼンバーグは「映画祭の方向性はいまだ模索中だが、年々必ず成長していくはずだ」と語っている。
約200作品解説付きの映画祭カタログ
 これから先、映画祭の個性が育つにつれて、観客も全米からやって来るようになるだろう。それまではニューヨークの映画ファンが、長い目で映画祭の成長を見守り続けることになる。


<<戻る


東宝東和株式会社