TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 NYサブウェイ・シネマ

 証券マンからアーティスト、ホームレスまで様々な人が乗り合わせ、まるで映画のワンシーンのような突飛な出来事が、毎日繰り広げられているのがニューヨークの地下鉄。今回はそんな地下鉄を舞台にしたNYサブウェイ・シネマをまとめてご紹介!
 多くのニューヨーカーの反対を押し切り、5月4日に2ドルに値上げされた地下鉄料金。ところが値上げ直前にMTA(交通局)の不正会計が発覚し、市民の怒りは爆発。裁判所への訴えが認められ、MTAは料金を値上げ前の1.5ドルに戻すことを命じられてしまった。ところがMTA側は裁判所命令の一時凍結に成功。さて、この先、どうなることやら。

 また、これまで50年間に渡って使われてきたトークン(改札口に投入する代用硬貨)も先月で廃止され、今ではメトロカードと呼ばれる磁気カードでしか乗車できない。しかし、昔ながらのトークンにノスタルジックな愛着を感じているニューヨーカーも多い。このように、とにかくニューヨーカーの生活からは切り離せない地下鉄。当然、映画にもたびたび登場する。
トークン廃止後も“トークン・ブース”と呼ばれている駅員詰所
 ウェズリー・スナイプスとウディ・ハレルソンが地下鉄警官を演じたのが『マネー・トレイン』('95)。劇中、地下鉄警察署はセントラル・パークの北端59丁目と5番街の地下にあることになっているが、これは映画だけのお話。
 しかし、ふたりが囮捜査をするウォール街駅、老女スリが登場する33丁目駅、放火魔がトークン売り場に放火するフルトン・ストリート駅などはすべて実在。それどころか、映画を真似たトークン売り場放火事件が実際に起こってしまい、“青少年に悪影響を与える映画”と非難された時期もあった。なお、狂気の放火魔を演じているのは、今年のアカデミー賞で助演男優賞を獲得した演技派クリス・クーパー。

 見せ場はなんといっても、トークンの売上金400万ドルを積んで地下を走り回る“マネー・トレイン”の強盗シーンだが、“マネー・トレイン”も実際には存在しない。なお、同じく95年に公開された『ダイ・ハード3』でも、ウォール街駅で地下鉄車両が爆破される凄まじいシーンが見られる。
地下鉄の駅名表示にはアンティークなモザイクが多い
 ケーブルTV局HBOが製作した『サブウェイ・ストーリーズ』('97)は、ニューヨークの地下鉄で起こる人間ドラマのアンソロジー。ニューヨークを描かせれば右に出る者のないアベル・フェラーラなど10人の監督が、いずれも珠玉のサブウェイ・ストーリーを見せてくれる。
 病床の母のためにプラットホームの公衆電話で歌う娘/小銭をねだるホームレスと口論するキャリア・ウーマン/毎朝“通勤列車内不倫”を繰り返す新婚男性 etc.,etc.…。それぞれが都会の白昼夢のようでありながら、とてもリアル。なぜなら、すべて一般から公募した実話に基づく物語なのだ。

 強盗に殺され、幽霊となって恋人を見守り続けるパトリック・スウェイジと、可憐なデミ・ムーアの“陶芸シーン”が世界中の涙を誘い、アカデミー賞5部門ノミネートとなったのが『ゴースト/ニューヨークの幻』('90)。自分が幽霊となったことが信じられないパトリック・スウェイジに、幽霊としての“生き方”を伝授するのが、地下鉄を住処とする“サブウェイ・ゴースト”だった。
プラットフォームのベンチもいまだに木製
 フランスからのニューヨークへの麻薬ルート壊滅を図る刑事をジーン・ハックマンが演じ、こちらはアカデミー賞9部門ノミネート、作品賞を始め5部門受賞という快挙を成し遂げたのが『フレンチ・コネクション』('71)。当時、高架列車の下を走り抜ける鮮烈なカー・アクションが大きな話題となったが、ニューヨークの地下鉄はマンハッタンを出ると高架線となっているものが多く、このロケもブルックリンの地下鉄高架線下で撮影されている。

 今年のトライベッカ映画祭で、『恋人たちの予感』('89)に登場する“カッツ・デリカテッセン”が“ニューヨークの有名なロケ地”第1号に選ばれたが、『フレンチ・コネクション』の高架も第2号の候補となっている。
地下鉄への降り口。今年のニューヨークは5月になっても寒く、ジャケットが必要
 ロマンスからアクションまで、いずれの作品も地下鉄構内や車内の様子はとてもリアルに撮影されている。サブウェイ・シネマ映画を観ることで、ニューヨークのデイリーライフを疑似体験できるといってもいいかもしれない。


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