TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ニューヨーク・シネマ 2003夏

 いつの時代もニューヨークを舞台にした映画には事欠かない。ニューヨークがさまざまな側面を持つ多様性の街であり、どんなストーリーでもフィットしてしまうからだ。今回は、この夏にシアターを彩るニューヨーク・シネマをリポート!
 まずは8月15日公開の『Uptown Girls(アップタウン・ガールズ)』。これは『8Mile』(02)、『サウンド・オブ・サイレンス』(01)で、すっかり売れっ子となったブリタニー・マーフィ主演のキュートなコメディだ。
 “アップタウン”とは、マンハッタンのセントラル・パーク東西両サイドにある高級住宅地のこと。ウディ・アレンの多くの作品で舞台となっているエリアといえば分かりやすい。

 ブリタニー・マーフィ演じるモリーは、ロック・スターだった父親の遺産で贅沢なアップタウン暮らしを楽しんでいた。ところが遺産が底をつき、やはりアップタウンに暮らすレコード会社エグゼクティブの娘で、早熟な小学生レイの子守りとなる。
『Uptown Girls』 マンハッタンに暮らすエグゼクティブのリッチで多忙な生活が見える
 それまで一度も働いた経験のないモリーと、さんざん甘やかされて育ったレイが上手くいくはずもなく、最初は衝突してばかり。しかし、いつしか姉妹のような絆がふたりの間に育まれていく。
 ”ニューヨーク市”はマンハッタンを含む5つの区から成り立っている。ニューヨーク市を抜けた郊外も“ニューヨーク州”で、マンハッタンに通勤する人が住むベッドタウンとなっている。そんな郊外地ウェストチェスター郡でロケを行ったのが、8月1日公開のブラック・コメディ『The Secret Lives of Dentists(歯科医の隠された生活)』。キャンベル・スコットとホープ・デイヴィス演じる夫婦は共に歯科医。何不自由のない生活を送っているが、妻はひそかに浮気をしていて……。

 実は北海道の2倍近い面積を持つ広大なニューヨーク州。北部はカナダとの国境に接していて、観光名所のナイアガラの滝もある。その近郊にあるのどかな地方都市バッファローを舞台にしているのが、現在すでに公開中の『Bruce Almighty(ブルース・オールマイティ)』だ。ジム・キャリー演じるブルースは、バッファローのローカルTV局のリポーター。シリアスな社会報道が夢なのに、“街で一番人気のクッキー屋さん訪問”みたいな仕事ばかり。ところがモーガン・フリーマン演じる白いスーツ姿の神様から“万能の力”を授かり、いい気になったブルースは、つい調子に乗って…。
『Bruce Almighty』 ニューヨークにものどかな街がたくさんある
 ジム・キャリーならではの顔面七変化や身体を張ったギャグは相変わらずだが、これまでの作品に比べるとオーソドックスなコメディ演技で勝負しようとしている様子。

 ここで喧噪と混沌のマンハッタンに戻り、いかにもニューヨークな作品を2本。7月25日公開の『Boys Life 4:Four Play(ボーイズ・ライフ4:4プレイ)』は、ゲイを主人公にしたショート・フィルム・オムニバス・シリーズの第4作目。8月22日公開の『Venus Boyz』は、女装の男性ドラッグクイーンならぬ、男装の女性“ドラッグキング”を追ったドキュメンタリー。
『Venus Boyz』 男性にしか見えない女性版“ドラッグクイーン”の姿を追う
 8月22日公開の『Marci X』は、人気シットコム『フレンズ』のリサ・クードローがヒップホップ・ワールドで悪戦苦闘する爆笑コメディ。クードロー演じるマーシは“JAP”(ジューイッシュ・アメリカン・プリンセス)と呼ばれるタイプのお嬢さま。ニューヨークには裕福なユダヤ系ファミリーが多く、贅沢に育てられた若いユダヤ系女性をJAPと呼ぶのだ。

 マーシはある日、父親が経営するヒップホップ・レコード会社を譲り受けるが、ビジネス経験は皆無な上に、黒人ラッパーと関わったことも一切ない。おまけにデーモン・ウェイアンズ演じる人気ラッパーの過激なナンバーが大ヒットして、さらなる混乱に巻き込まれてしまう。

 ニューヨーク・シネマには、あらゆるタイプの人々と場所、さまざまな社会背景が登場する。もちろんデフォルメされているものも多いが、それぞれが多少なりとも現実のニューヨークの反映だ。だからこそ、これらの作品を観比べてみると、ニューヨークの多様性を知ることができる。
『Boys Life 4:Four Play』 ゲイを描いた短編オムニバス


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