映画の公開初日というものは、映画会社にとって特別の日です。今まで自分たちがしてきたことに対しての“結果”が良くも悪くも出 てしまうからです。この場合の結果とは、言うまでもなくお客さんの 入り具合ということになります。昔から「映画は水もの」と言われ、 公開前の試写会などの評判がどんなに良かったとしても、いざ初日を迎えてみるとそれほどではなかったということも往々にして起こりま す。なので映画会社の人間は、自分たちの目でお客さんの入り具合を確認する為に、初日はその作品のチェーンマスターと呼ばれるメイン 劇場に赴きます。

 チェーンマスターとは全国公開数百館の中で、トップに位置づけられた劇場のことで基本的に動員数・興行収入ともに第1位となっています(たまに東西が逆転することも作品によってはありますが…)。また東宝系にしても松竹系にしても、単館系の映画館を除いては、チ ェーンマスターは東京の銀座・有楽町地区に集中しているのですが、これは東宝・東映・松竹といった全国興行網を持つ会社がこの付近に ある為です。

 初日にチェーンマスターに行った映画会社の人間は、そこで自分たちが思い描いていたようなお客さんが来ているかということをチェックするだけでなく、お客さんが何人来ているのかもチェックし、過去のデータと比較し検討していきます。この場合のデータは、過去チェー ンマスターで上映された公開作品の中から、作品のタイプや公開時期、出演している俳優などが同じ作品をピックアップ。そして初日の各時間ごとに入場者数のデータ(通称“時間メーター”)になります。

 ちなみにこの時間メーターで初回のものを通称“打込”(ウチコミ) と呼んでいます。また時間メーターは「窓口」(通称“マド”)と 「着券」という区別がなされています。感の良いかたなら既にお気づきかもしれませんが、「窓口」とは当日券のことで「着券」とは前売 券のことを指します。映画会社としては、もちろん入場者数が多ければ多いにこしたことはないのですが、この内訳も重要で、窓口の数の 方が着券より多い方が、今後の伸びが期待出来るということで大事なのです。もし初日から窓口より着券の方が多いというような状況だと お客さんに広がりがないということになってしまい、あまり今後に期待出来ないからです。

 過去作品の初日打込と、公開初日を迎えた作品の打込数字を単純に比 較し、その上下の幅によって、『あの作品は配収で○億円だったから、この作品は×億円くらいはいきそうだ』といった見通しが早々とつけられるというわけです。もっとも作品のジャンルや、初回時間が早め なのか遅めなのか、その日の天候といった要素によっても影響があり、これだけで全てが見極められる訳ではありません。それらの要素と、時間メーターの伸び具合(時間メーターが伸びるのは、各上映開始時間の前なので映画の上映中にはあまり変動はありません)などで、お 客さんの出足を検討して、最終的な見通しを立てていくのです。

 そんな訳で初日打込前後のチェーンマスター周囲には、映画会社だけでなく関係各社の人間が集まってきているので、一般のお客さんが見 たらきっと混んでいるのかと勘違いしてしまうことだと思います。銀座や有楽町に良く映画を観に行かれる方は、一度初日の初回に足を運 んでみてはいかがでしょうか?きっとそこで悲喜こもごもの映画会社の姿を見つけられるはずですよ!

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