プリントについて その1

 今回は映画のフィルムについてのお話です。皆さんが劇場で目にする画像が映写されるためのフィルムは、撮影されていた時から考えれば4世代目のコピーになり、通常“プリント”と呼ばれています。
 順番を追っていくとまず、映画撮影時のフィルムを“オリジナル・ネガフィルム”と呼びます。これはまさにオリジナルなので1本しか存在しません。勿論そのままでは公開出来ないので、その“オリジナル・ネガフィルム”に色調整などを施します。これが“インター・ポジフィルム”と呼ばれるもので、事実上のマスター・フィルムになります。

 この“インター・ポジフィルム”からプリントを焼く為にコピーされたものが“インター・ネガフィルム”と呼ばれます。このフィルムから上映に必要な本数だけ焼かれたものが、“プリント”になるという訳です。ネガフィルムとポジフィルムの関係は、写真と全く同じなので、皆さんにもご理解して頂けると思います。
 洋画に関しては日本で制作している訳ではありませんので、海外から“インター・ネガフィルム”を取り寄せて、それに日本語字幕の焼き込み処理をした上で、プリントをしていきます。因みにこのとき字幕を入れて、一番最初に焼かれたプリントを通称“初号”と呼んでいます。この初号を試写した段階で、もし字幕の文字や位置がおかしければ訂正し、その上で次々とプリントを焼いていくのです。

 ただこのプリントを焼くのは、非常にコストがかかる作業なのです。その費用は決して馬鹿になりません。1本のプリントを焼くのにかかる費用は、大体約30万円程度。それが全国公開作品であれば、200~300本は必要になってくるのです。単純に考えて、これだけでも約6000~9000万円がかかる訳です。ましてや超話題作ともなれば、拡大公開の分などを含めて600本ぐらい必要です。そうなるとプリント費用だけでもう億単位になってしまうのです! このプリント費は、宣伝広告費と並んで通称“P&A”と呼ばれ、必要経費として真っ先に利益から差し引かれるもの。非常に大きなウェイトを占める経費です。

 最近では、このプリント費を削減できるばかりでなく、プリントの運搬費と手間の削減、更に映写機を通さない為に何回上映しても画質が劣化しない等々、プリントと比べて数多くのメリットのあるデジタル・シネマ“DLPシネマ”での上映がアメリカと日本で行なわれ始めています。日本では『トイ・ストーリー2』('99)がデジタル上映第1弾でした。因みにデジタル上映を行なったのは、日劇プラザ、シネフロント渋谷などごく一部の劇場のみです。
 ただデジタル上映の為には、専用の上映設備が従来の映写設備とは別に必要になる為、まだまだ全国的に普及する為には時間がかかりそうです。しかしデジタル上映設備が整えば、衛星や光ファイバー網などを中継し、デジタル配信上映が将来的には実現可能になります。既に、デジタル配信の実験上映は始まっていて、実用化はまだ先にしても、その画質などは従来のフィルムのものと大して遜色はないということなので、大いに期待したいところですね。

 プリントのデジタル化は、フィルムならではの味わいが消えてしまうので、昔からの映画ファンにとっては一概に受け入れられるものではないかもしれません。それはデジカメ全盛の現在でも、銀塩カメラが好まれるとの同じことでしょう。しかし、デジタル化が上記のように進めば、映画会社にとってはコストの大きな削減が可能となります。とういうことはもしかしたら、映画の入場料金の引き下げというような形で、お客さんにもそのメリットが反映されることがあるかもしれませんよね。日本でデジタル上映が普及するのは、果たしていつになるのでしょうか?
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