興行成績の予測

 これから公開される映画が果たしてどの程度の興行成績(興行収入)で大ヒットするのか、あるいは全然ヒットしないとしたらどの程度の興行成績で終わってしまうのか、ということをもし事前にすべて正確に予測できる人がいれば、その人はきっと各映画会社から欲しがられる人材となるのは間違いありません。
 そのくらい映画の興行成績を正確に予測するのは、難しいことなのです。勿論、各映画会社は、これまで様々なジャンルの膨大な本数の映画を公開してきているので、過去に培った経験値に基づいたデータを持っています。たとえば、GAGAが独自の予想システムを持っているのは有名な話です。これらのデータからある程度の近い予測は出来るかと思いますが、それでも誤差は十分にあるはずです。

 当然、公開が近くなればなる程、その映画の置かれた状況(どのぐらい浸透、認知されているか、など)や周辺状況(他の競合作品の状況はどうか、など)も良く分かってくるので、予測の精度は高くなります。それをもし仮に映画を買い付ける初期段階で、日本公開時の興行収入はズバリ幾ら、ということが分かるなら、無駄な買い付けをするというケースも無くなります。つまり、いつでも手堅いビジネスが出来ることになるのです。
 でも、現実はそんなことは不可能に近いでしょう。勿論このキャスティングで、この監督で、このストーリーならば数十億円は堅いはずとか、この内容のコメディでは日本では絶対ウケないだろう、といったレベルの予測であれば、別に難しいことではありません。

 しかしながら現実レベルで考えると、よりシビアに予測が必要です。実際の興行成績と予測時のものとの間のズレが、例えマイナス1億円単位でも、戦略的に致命的な問題になってしまうのです。なにせ映画会社の年間予算は、これらの予測を元に作成される訳ですからね。
 前々回の豆知識でもチラリと触れましたが、映画公開までにかかる費用の最たるものは“プリント費と宣伝費”(通称P&A)になり、これが回収された上で初めて収益になる訳です。もし大ヒットを予測した為にプリントを多く焼きすぎてしまったり、宣伝費を1億円余分に使ってしまったなんていうことがあれば、プリント費&宣伝費すら回収できないことになってしまうのです。

 事前に予測が外れることが分かっていたら、無駄に費用は使いませんよね。本来大ヒットする作品なのに、低く見過ぎた為に機会損失してしまった、なんていう逆のケースもありえますが。
 以前お話したことですが、映画は劇場公開時だけで収益を出せるケースの方が少ないので、ビデオ&DVDや、BS/CS/TV放送などの2次・3次利用も視野に入れて、トータルでペイさせて行きます。劇場時の予測が異なれば、当然ペイさせる為のハードルが2次・3次利用の時に高くなってしまう訳です。やはりこの時点でも、劇場公開時の興行成績の予測は非常に重要になります。

 全国的なシネコンの隆盛もあり、映画業界は以前低迷していた時代より確実に活気を取り戻しています。今後、大ヒット作品と呼べるようなものが、多く生まれてきそうな現況です。各映画会社が、映画ビジネスで更に成功し、生き残っていく為には、どこまで正確な興行成績の予測を打ち立てられるか、そしてそれに基づいた戦略をどこまで実践していけるのか、ということになっていきそうですね!
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