日本の映画興行勢力図

 10年ほど前に(1990年代)私が入社した際には、日本における映画興行網に関しては、大きく分けて、日本の三大映画会社である東宝による東宝系(邦画・洋画)、東映による東映系(基本的に邦画)、そして松竹による松竹系(基本的に邦画。洋画の場合には東急と組んで松竹・東急系と呼ばれている)が、ロードショーと呼ばれる全国9大都市をそれぞれの興行チェーン網でほぼ占有していました。ちなみに直営の映画館には大体名前に“~東宝”だとかついています。
 そしてそれ以外のローカルと呼ばれる地域では、それぞれ独自の興行会社や個人館主が映画館を展開させていました。なかでも特にロードショーにおける東宝の興行力は他よりも圧倒的であったのを覚えています。だから大きな話題の作品はかなり東宝系に集中していた感があります。

 それ故に、ある映画の一興行における全国の興収(興行収入)の構成比率は、作品によって前後することは勿論ありましたが、概ねロードショーが65%、ローカルが35%ぐらいとなっていました。つまり興行におけるロードショーの力が非常に強かった訳です。更に10年ほど前までは映画人口に比例してか、映画館は年々増えるというよりは、ローカルで閉館する映画館もあり、減少傾向となったことによって、ますます都市部中心の映画興行に拍車がかかっていたように思います。
 そんな中、外資系のワーナーマイカルが神奈川県の海老名に日本における初のシネコンをオープンしてからは、皆さんもご存知の通り次から次へとワーナーマイカルだけではなく他の外資系(ユナイテッド・シネマ/AMC/ヴァージンシネマズ)も名乗りを上げ、全国にシネコンオープンのラッシュが始まり、それは現在まで続いています。

 まだシネコンオープンがまばらだったころは、シネコンは興行に対して大した影響力をもっていませんでしたが、しかしここ近年に到ってはその急増により日本の興行勢力図はシネコンによって塗り替えられてしまうことになりました。

 つまり、ロードショーとローカルの全国の興収比率が以前と完全に逆転してしまい、ロードショーが35%前後、ローカルが65%前後というまでになってしまったのです。勿論シネコンだけで65%を占めている訳ではありませんが、ローカルにおけるその影響力は一目瞭然です。
 これはやはりシネコン急増により今まであまり映画館に足を運ばなかった人達が、その利便性などからシネコンという映画館へ足を運ぶようになったことの表れだと思います。つまり減少傾向や横ばいの状況であった映画館数(しいては上映スクリーン数)や映画人口がシネコンによってほぼ毎年増加といっても良い状況になってきた訳です。

 これは万年斜陽産業とかっては言われた(私は入社時に先輩から言われました<笑>)映画配給会社にとっても、非常に有益なことで、上映スクリーン数が増えたことによって過去よりも話題作ではより興収アップが期待できることになった訳です。事実現在興収で100億円を突破するような作品は年間数本ぐらいは生まれてくるようになりました。裏をかえせば、大ヒット作品とそうでない作品との差が両極端になったとも言えるかもしれません。

 ただそうなると一転厳しい状況に立たされてしまうのが、これまでの主役であるロードショー側の東宝・東映・松竹ということになってきます。事実、各社はそれぞれシネコンも全国に展開して、外資系シネコンへの対抗を図っています。代表例は、東宝→お台場メディアージュ他、東映→TJ、松竹→MOVIXなどです。しかし外資系シネコンの全国展開と比べてしまうと、シネコンが専業という訳ではないですから、そういう点ではまだ外資系シネコンに一日の長があるような感じは致します。

 しかし、ここにきて日本の映画興行の勢力図を塗り替えるような非常に大きな転機が訪れました。それは先日、東宝が外資系シネコンを展開するヴァージンシネマズを買収したという報道です。
 単純に言えばこの買収劇により全国に展開するヴァージンシネマズは東宝傘下になるので、東宝&ヴァージンのスクリーン数が全国No.1となるそうで、再び東宝が日本における映画興行のトップに立つことになったのです。この出来事によってここ近年、外資系シネコン勢力に二の足を踏まされていた東宝の反撃が始まるのは間違いありません。

 これからも外資系シネコンによるシネコンオープンは各地で続くかもしれませんが、既に飽和状態であるという声も聞くようになってきました。現在は以前よりあきらかに映画人口が増加したと思いますが、それでも限りはあります。となると、これからは映画館(特にシネコン)も今以上に独自サービスなどで特色をより打ち出して企業努力をしていかなければならなくなり、生存競争に拍車がかかることになるかもしれませんね。

 日本における映画興行勢力図はまだまだ変化していきそうです。
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