第83回 ウインドウ(1)

 前回のエアラインのお話の際にも、「ウインドウ」<保護(プロテクト)期間>という用語を使用しました。このウインドウという概念は、映画ビジネスにおいて重要なものなので、ここであらためて説明しておきたいと思います。
 皆さんもご承知の通り、ある映画のビジネス的な流れとしては、まず劇場公開を第1段階と考え、劇場公開→ビデオ&DVD発売→BS&CSにて放送(有料<ペイ>テレビ)→地上波TVにて放送(無料<フリー>テレビ)と、概ね4段階の過程を踏んで進んでいきます。

 何故このような段階を踏むのかと言えば、段階を設けることで、それぞれのステップでビジネスチャンスが生まれるからです。それぞれのメディアにとっても、段階を踏むことで独占的な期間が生じるというメリットがある訳です。このそれぞれの段階の間の独占的な期間が、「窓」を意味する“ウインドウ”と呼ばれています(恐らくは“閉め切る”という意味から生じているのだと思います)。

 映画は非常に高額な商品なので、劇場公開だけでプラス収益を出すことは決して簡単ではありません。宣伝費用やプリント費用も必要経費でかかってくるため、上記のような段階ごとのビジネスによって、さらに収益を追加計上していきます。そうすることで、作品によっては初めてトータルでプラスになるのです。これは今まで述べてきた通りです。
 さて、ビデオ&DVD発売という第2段階までのウインドウは、従来は映画公開から概ね半年後(6ヶ月)でした。それが最近では、アメリカ本国のウインドウが4~5ヶ月ぐらいと短縮されてきたので、日本でも同様に短縮されていく傾向が見受けられます。この動きの背景には、“鉄は熱いうちに打て”ではないですが、ユーザーにしてみればビデオ&DVD発売は早ければ早いに越したことはない、という本音があるからだと思います。

 映画会社としても、まだ劇場公開の余韻が少しでも残っているうちにビデオ&DVDを発売すれば、あらためてビデオ&DVD発売のために宣伝費をかける必要性もなくなります(つまり宣伝費のコストダウンも出来るのです)。何より、作品の鮮度がいい訳ですから、非常に効果的というマーケティング戦略に基づいています。ただ、大ヒットしてロングラン上映となったような映画の場合には、このパターンが適用できるとは限りません。発売日決定の告知にしても、場合によっては映画の上映期間中に行なわれることもあります。そんな時は興行への影響を考え、うまく時期を見て発表する必要があります。
 次のBS&CS放送の第3段階は「ペイ・テレビ」と呼ばれる段階で、スカパー(CS)の中の“パワープラッツ”や“パーフェクト・チョイス”といったPPV(ペイ・パー・ビュー)方式や、“WOWOW”(BS&CS)、“スターチャンネル”(BS&CS)といった放送媒体が該当します。

 この段階をさらに細分化すると、視聴した作品ごとに視聴料金がかかるというPPV方式が一番最初で、ビデオ&DVD発売の概ね3ヶ月後から放送がスタートします。その3ヶ月後、つまりビデオ&DVD発売の半年後から、WOWOWやスターチャンネルでの放送が始まると考えて間違いありません。もちろん、これは映画会社によってウインドウの設定の仕方が異なったりする場合もあるので、あくまで概ねの目安でしかありません。
 つまり、ペイ・テレビの中でもさらにウインドウがあって、PPV方式のチャンネルが先になるわけです。そして、その後のWOWOWが大きな存在であるということです。それぞれの放送媒体で契約を行なうので、さらにビジネスチャンスがあることを大体理解しておけば問題ありません。ただし、契約によっては、その放送媒体に非独占期間を設けることも可能です。そのような契約であれば、微妙に時期が重なっての放送ということもありえます。

 尚、その他のCS映画チャンネル(CSN1ムービーチャンネルなど)での放送に関しては、第4段階である地上波放送の後になることが多いようです。

 次回、ウインドウ(2)と題して、第4段階となる地上波放送を中心にお話します。
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