日本語吹替版<2> (1)

 以前の「豆知識」でも触れ、最近のウインドウの項目の際にも、地上波放送の日本語吹替について言及しました。ここでは日本語吹替版のバージョンについて、さらに突っ込んだ話をしたいと思います。

 現在では、地上波放送や、ビデオ&DVDだけでなく、劇場でも日本語吹替版に接することが出来る状況です。そうすると、当然ながら“ある問題”が発生してきます。それは各メディアによって吹替版のバージョンが異なるということです。

 劇場公開の際にすべての作品に日本語吹替版がある訳ではないですが、もし制作された場合には、大体その劇場版をそのままビデオ&DVDに収録される吹替版として流用(正確には“転用”という表現)することになっています。しかしながら、劇場向けとビデオ&DVD向けの演出の方向性などが異なる場合など、状況によって、劇場版吹替とビデオ&DVD版吹替が異なることもあるのです。
 さらに、地上波でオンエアされる際には、ほとんどの場合ビデオ&DVDに収録された日本語吹替版を転用することはなく、オンエアするテレビ局であらたにゼロから日本語吹替版を制作することが少なくありません。それに、ずっと永久に同じテレビ局でその作品がオンエアされる訳ではなく、あくまで放映権の契約期間に基づいています。当然ながら、そのテレビ局での契約期間が過ぎて他局に放映権が売れれば、別のテレビ局でオンエアされることがある訳です。そうすると、ウインドウの項目の際に話したように、新しく放映権を獲得したテレビ局で、また独自の吹替版を制作することもあります。

 つまり、もし仮にすべてのメディアにおいて異なるバージョンの吹替が制作されたとすると、劇場版吹替/ビデオ&DVD版吹替/地上波放送版吹替(各局バージョン)と、最低でも3つ以上の複数の日本語吹替版のバージョンが存在することになるのです。そうなると、人によっては、あの吹替バージョンの声優が良かったというように、好みが分かれるのではないしょうか。

 本来であれば、形として残るビデオ&DVDの吹替版を気に入ってもらうのが一番ですが、その後の地上波オンエア版を聞いたら、そちらの方がより良い感じに思えたということもあるようです。特に、あるテレビ局での地上波オンエア版・吹替を気に入ったという方は、ビデオでも録画して残しておかない限り、二度とその同じ吹替を聞くことが出来ない可能性すらあります。そう考えると、地上波の吹替はある種“一期一会”的なものと言えます。
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