アクセスレター

 ある会社が、ある映画に関するオールライツ(詳しくは以前の回を参照)を海外ライセンサーからの許諾を受けて永久に保有しているのであれば、何らかの理由で自ら手放すことがない限りにおいては、ずっとその会社がその映画の権利を保有し続けることになります。しかしながら、もし保有期間が限られていたりする場合、該当期間が終了した後はその作品に関する権利を一切失ってしまうことになります。

 映画を商品として考えた場合には、当然売れ筋(いわゆる大ヒット作品)の映画にはライブラリーとしての価値があります。だから永久に権利を保有していればコンスタントに収入が得られることになります(例を挙げれば、度々テレビで「インディ・ジョーンズ」シリーズや「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズなどの作品が何回もオンエアされていますが、これは視聴率が安定して軒並み良いため、あるいはテレビ局に何度も売れているため)。

 メジャー系の会社は当然“各映画のALL RIGHTSを永久に保有する”という概念を古くから当たり前のように持っていると思います。しかし弊社のような独立系の会社は基本的に映画を買い付けなければならないので、金額の問題などもあり、過去に配給・公開してきた全ての作品のオールライツを永久に保有できないのが現状です。つまり、仮に一時期はオールライツを保有していたとしても、海外のライセンサーからの権利許諾期間が過ぎてしまえば、契約を延長しない限り自動的にその権利を失ってしまうという訳です。弊社の場合、今年で創立75周年と歴史は古く、過去から現在まで数多くの映画を配給してきましたが、現在オールライツを永久に有している映画というのは本当にまだまだ少数です。
 よって、その時点でそれまでに日本で制作した字幕版なり吹替版といったマスター素材などは弊社で勝手に使用することは出来ず、ライセンサーからのリクエストがあればそれらのマスター素材を全て引き渡す、あるいは移動するといった処理を行なうことになります。

 そういったライセンサーから素材に関するアクセスを求めてきたものが、通称“アクセスレター”と呼ばれる文章で、内容としては“○○の素材一式を○○社に渡して下さい”といったものになります。大抵の場合は、次に権利を獲得した他社にそこが希望している映像素材を引渡すことになるのがほとんどです。特に最近ではDVD人気もあってか、過去作品のDVD化(初DVD化という場合もあります)で制作に使用する吹替素材や映像素材を入手するため、そのようなアクセスレターが弊社にも多く届くようになってきています。

 最近の例でいえば、弊社が過去に扱ったジャッキー・チェンの4作品『酔拳2』『デッドヒート』『ファイナル・プロジェクト』『レッド・ブロンクス』がワーナーよりDVD化された際にも、ワーナーより弊社にアクセスレターが届きました。先日、東北新社より発売された『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の初DVD化の際にも、やはり弊社にアクセスレターが届きました。
 一般の方たちにとっては映画は映画ですから、どこの映画会社が劇場公開以後取り扱うことになってもそんなに印象が変わることはないと思います。しかし我々にとってみれば、かって自社で取り扱った映画を他社が取り扱うようになるというのは、愛着があるせいか非常に不思議な感じを覚えてしまうのです。これは独立系映画会社の宿命なのかもしれませんが、映画業界ではこういうことが結構あります。現在、どこがその映画の権利を持っているのかを正確に把握するようにしておかないと、無用なトラブルが発生してしまう可能性があるので注意が必要です。
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東宝東和株式会社