映画の買い付け

 多くの映画会社にとって最も重要なことと言えば、どれだけ良い“映画という商品を取り揃えられるのか”ということに尽きます。ちなみにここで言う良い映画とは、良質な映画という意味ではなく、会社にとって利益をもたらす、つまり大ヒットするであろうという映画になります。大手のメジャー系会社(20世紀フォックス、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ワーナー・ブラザース映画、UIP映画<PARAMOUNT&UNIVERSAL系>など)は基本的には、本国よりそのまま映画が来るので買い付けの必要性はありません。(※但し、現在ではインターナショナル向けに権利を別に販売する映画もあるので、メジャーが扱ったタイトルがそのまま、日本支社に来ない場合も多々あります。詳しくは興行会社と配給会社参照)。
 従って、買い付けをする必要性があるのは我々のような本国に親会社を持たない、インディペンデント(独立)系の映画会社になり、逆に買い付けを常にしていかなければ会社として成り立っていかないということになります。
 この買い付けに関しては、当然各社によって考え方が異なってきますので、年間にかなりの本数の映画を買い付けるところもあれば、本数を抑えて買い付けを行なっているところもあります(弊社の場合は、どちらかというと後者のタイプです)。またこの段階での資金面での問題をクリアする為にも、自社単独での買い付けだけでは限界があるので、出資パートナーを募って買い付けるということも当然有ります。

 勿論、既に完成している映画を観た上で、買い付けを検討出来ると言う理想的なケースも中にはありますが、往々にしてハリウッド映画に関する買い付けは、基本的に脚本完成のレベルぐらいで、その脚本を読んでポテンシャルの検討(この段階でキャストや監督の候補が決定していることもありますが、多くの場合未決定という状況が大半)ということになるので、その段階でとても興味深い映画でない限りは、ほとんどは読むだけに終わってしまいます。もし仮に興味深い脚本だったとしても不確定な要素や不安材料があったり、先方の提示する契約条件(主に金額面など)とうまく折り合いがつきそうになければ断念せざるを得ないということになってしまいます。
 またヘタに同じ映画狙いで買い付けの競合相手などがいたりすれば、買い付け価格の高騰という事態を招くことにもなり、結果自分達のクビを締めることにもなるので、この買い付けという作業は、情報収集と、その見極めが非常に重要になってくると思います。尚、誰もかれもが買い付けを検討出来るという訳でもなく、当然取引先相手とのそれまでの付き合い・実績といった信頼関係などから優先的に新作の情報などを得られるということもあるので、常に海外とのコンタクトをとっていなくてはいけないのです。ちなみに「あの映画もしかしたら、うちで扱うことになっていたかもしれない」という映画が他社から公開されるなんてことは実際結構あります(第何稿目の脚本かは分かりませんが、脚本ぐらいは目を通しているものがあるということです)。そんな場合、大ヒットしたりすると非常に悔しいですが、逆に「うちが扱わなくてよかった(笑)」と思うようなこともあるので、難しいですね。

 最後に毎年5月にフランス、カンヌで開催される「カンヌ国際映画祭」というと一般的にはその出品映画の動向などや来場ゲストなどが話題の中心となるので、ご存知の方は少ないと思いますが、実は世界中から数多くの映画とそして映画会社・業界人が集結する“フィルムマーケット”という側面も持っています。従って日本からもインディペント系の各映画会社からは必ず買い付け担当者達が現地に赴き、そこで何か良い映画がないかと眼を光らせ、良い映画があればそこで獲得に向けて動くという「買い付けの場」として重要視されています。勿論、世界には他にもフィルムマーケットと呼ばれるものはあるのですが、中身が濃いという意味ではこのカンヌが一番なのではないかと思います。事実、同映画祭期間中や、その終了後には大体、「あの映画の権利は○○○社が獲得したらしい」といった噂や情報が、映画業界内を飛び交いますからね。

製作段階で売りに出される映画の契約については<ハリウッドビジネスの裏事情>をチェック!
■第17回 セールス・エージェントの役割
■第75回 映画の売り方
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