■スティーブン・スピルバーグ監督作品『未知との遭遇』
SF映画の歴史を変えた!若き日のスピルバーグ監督が制作したSF映画の傑作を紹介
 少しでも映画に興味のある人ならば、スティーブン・スピルバーグ監督の名前を知らない人はいないでしょう。弱冠25歳で『激突!』('71)を監督して日本でも大ヒット、その後も『ジョーズ』('75)、『E.T.』('82)、『インディ・ジョーンズ』シリーズなどでめきめきと頭角を現し、今や世界に名だたる大監督となりました。そのスピルバーグ監督が31歳の時に制作したのが『未知との遭遇』('77)です。原題の『CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND』の直訳は“第三種接近遭遇”で、異星からの生命体との接触を意味します。

 スピルバーグ監督は“明快なアイデアこそが、観客の心にヒットする”という命題をいつも掲げています。それは今も変わりありません。彼自身が手掛けた本作の脚本は、異星人が意思を持って接近してくるといった、ミステリアスでもあり、また明快なストーリーで多くの観客を惹きつけます。本作は、サイエンス・フィクションという当時あまりヒットの見込まれていなかったジャンルで成功した作品として、『スター・ウォーズ』('77)と並んで世界中で知られるようになりました。
 『未知との遭遇』は監督自身の幼少期の思いをもとに作られています。テディ・ベアといった人形やぬいぐるみから卒業したあとでも話しかけられる小さな存在=“心の友だち”がこの作品の宇宙人を描く原型となったそうです。当時まだ若かった監督は、壮大な宇宙の中で生きているのは我々だけでない、という希望にも似た思いから、異星人と人類の出会いをリアルかつ感動的に描いています。

 音楽は、現在ボストン・ポップス・オーケストラの名誉指揮者であり、『スター・ウォーズ』、『E.T.』、『シンドラーのリスト』('93)など、スピルバーグ作品のサウンドトラックを数多く手掛けているジョン・ウィリアムズ。映画監督のフランソワ・トリュフォーが役者として出演しているのもみどころのひとつです。

 また、この作品はSFXの先駆者たちが携わり、アカデミー賞でも音響効果や特撮部門にノミネートされました。『ディア・ハンター』('78)、『ミッドナイトクロス』('81)など、数多くの作品を手掛けているヴィルモス・ジグモンドがアカデミー撮影賞を獲得しています。
 ダグラス・トランブルは、『2001年宇宙の旅』('68)を始め、『スター・トレック』('79)、『ブレードランナー』('82)などの特殊視覚効果を担当、『未知との遭遇』ではマザーシップを制作しました。デニス・ミューレンは、トランブルが作ったマザーシップの撮影を手掛けています。彼はジョージ・ルーカスのSFX工房“インダストリアル・ライト&マジック”(通称ILM)の主要スタッフで、本作のほかにも『スター・ウォーズ』('77)、『アビス』('89)、『ターミネーター2』('91)、 『キャスパー』('95)、『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』('99)などに携わる特殊効果の大ベテランです。ちなみに本作は、ある箇所で『スター・ウォーズ』のR2-D2を出演させています。そして、肝心の異星人は、『E.T.』も手掛けたカルロ・ランバルディが制作しました。彼は『サスペリア Part2』('75)の特殊効果、『エイリアン』('79)のエイリアン・ヘッド・エフェクトのほか、『デューン・砂の惑星』('84)のクリーチャーなども作っています。

 本作は当時のSFXチームにとっても未開拓の技術が数多くあったのですが、創意工夫が結実し、現在ではどのスタッフもビッグ・ネームの作品に関わるようになっています。『未知との遭遇』は、映画界の技術革新に貢献を果たした作品のひとつなのです。


■ストーリー

 インディアナ州で異様なエネルギーを持った発光体を目撃したという者が続々現われた。電気技師のロイ・ニアリー(リチャード・ドレイファス)もそのひとり。突拍子も無い話に、妻のロニー(テリー・ガー)は耳を貸そうとせず、ついに子供を連れて家出してしまう。また、インディアナ州郊外のマンシーに住むジリアン(メリンダ・ディロン)は、幼い息子バリー(ケリー・ギャフィ)が夜中に突然失踪してしまい、どうやら発光体にさらわれたらしいと気付く。やがてロイやジリアンは、ワイオミング州のデビルス・タワーと呼ばれる恐ろしげな山に惹きつけられる。一方、発光体を調べていたUFO調査団のリーダー、クロード・ラコーム博士(フランソワ・トリュフォー)は、5音階のメロディーを使えば異星人と交信出来るのではと確信していた。やがて小型の飛行体が次々と飛来。ラコーム博士の指示で地上から5音階のメロディーが発せられる。それに反応するかのように現れたのは空を覆うほどの巨大なマザーシップだった。果たしてジリアンは息子を取り戻すことができるのか?また、ロイたちは異星人と交流できるのだろうか?


■この作品、ココをチェック!
キューブリックも絶賛する才能!スティーブン・スピルバーグ監督
 スタンリー・キューブリック監督は生前、スピルバーグ監督の特撮の手腕とアイデアに大変興味をもち、敬意を払っていました。彼らは実際にはほんの数回しか会ったことが無いのですが、キューブリックはスピルバーグの才能を手放しで誉め、映画に関するあらゆることについて電話で話し合うようになったといいます。キューブリックとスピルバーグではその表現方法は大きく異なりますが、だからこそ、彼らは互いに持ち合わせていない部分で共鳴することができたのかもしれません。

 キューブリックは冷静かつ芸術的な趣きをもった映画を多く作りましたが、スピルバーグのアプローチはあきらかに違います。芸術志向とは正反対の娯楽作で、世界中の観客をドキドキハラハラさせてきました。幼い頃から映画に親しみ、16歳で長編作品を監督、好きが嵩じてメジャー・スタジオにもぐり込んでTV作品を監督してしまうほど。ロバート・ゼメキス監督は、スピルバーグの人生がひとつの映画作品のようだ、と語っています。
 最も好きな話が「ピノキオ」というスピルバーグ。『未知との遭遇』のラストシーンに映画『ピノキオ』('40)の“星に願いを”を使おうとしたくらいです。残念ながら曲は作品からははずされてしまいましたが、誰よりも子供の心を大切に持ちつづけ、大好きな映画という仕事の中で、好奇心と斬新なアイデアを盛り込み、一級のエンターテインメント作品を生み出しました。しかし、それは一朝一夕にできたわけではありません。彼は映画の一部分をみただけで、それがどうやって撮影されたか事細かに語って聞かせることができるといいます。彼ほど映画を愛し、堪能し、研究した人もいないのではないでしょうか。映画はシナリオとアイデアが命で、テーマが短いほど良い映画になると断言しています。スピルバーグは映像面で斬新なテクニックを多用し、観客を惹き付けると思われがちですが、しかし最も大切なのはストーリーの骨子だと語っています。
 じつは、キューブリックの好きな作品も『ピノキオ』だったというから驚きです。しかし、だからこそ、キューブリックが持っていた『A.I.』(01)のアイデアをスピルバーグが具現化することができたのでしょう。ディズニー映画を愛し、黒澤明、ジョン・フォードら、名監督に倣ってきたスティーブン・スピルバーグ監督。今後どのような作品で私たちを楽しませてくれるのか、期待はますます膨らみます。


■スティーブン・スピルバーグ プロフィール

 1947年12月18日、米オハイオ州シンシナティ生まれ。本名スティーブン・アラン・スピルバーグ。少年時代から映画を撮り始め、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で本格的に学ぶ。1969年アトランタ映画祭で上映された『AMBLIN』がきっかけでユニバーサルと契約。TV映画『激突!』('71)が米以外で劇場公開され大ヒットとなり、翌年、『続・激突!カージャック』で劇場映画監督としてデビュー。続けて『ジョーズ』('75)などで記録的な大ヒットを飛ばし、ハリウッド随一のヒット・メーカーになる。社会派作品『シンドラーのリスト』('93)、『プライベート・ライアン』('98)でアカデミー賞監督賞を受賞。また若手の育成にも積極的で、映画界への功績を称えられ、1989年にはアービング・G・サルバーグ賞が贈られている。1994年、ジェフリー・カッツェンバーグ、デビッド・ゲフィンと共に映画製作会社ドリームワークスSKGを設立。製作者としても活躍中。最新作はハーレイ・ジョエル・オスメント主演、近未来のロボットの姿を描いた『A.I.』(01)と、トム・クルーズ主演のSFサスペンス『Minority Report』(02)。


■『未知との遭遇 完全保存版』('77)
原題:CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND
発売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
価格:¥4,980(税抜)
<スタッフ>
監督・脚本 スティーブン・スピルバーグ by Steven Spielberg
製作 ジュリア・フィリップス Julia Phillips
マイケル・フィリップス Michael Phillips
撮影監督 ヴィルモス・ジグモンド Vilmos Zsigmond
特殊視覚効果 ダグラス・トランブル Douglas Trumbull
音楽 ジョン・ウイリアムズ John Williams
美術監督 ジョー・アルヴス Joe Alves
編集 マイケル・カーン Michael Kahn
テクニカル・アドバイザー J・アレン・ハイネック博士 Dr. J. Allen Hynek
クリチャー制作 カルロ・ランバルディ Carlo Rambaldi
視覚効果撮影監督 リチャード・ユリシック Richard Yuricich
マット・ペインティング マシュー・ユリシック Matthew Yuricich
特殊視覚効果コーディネーター ラリー・ロビンソン Larry Robinson
マザーシップ撮影 デニス・ミューレン Dennis Muren
<キャスト>
リチャード・ドレイファス ロイ・ニアリー役 Richard Dreyfuss
フランソワ・トリュフォークロード・ラコーム役 Francois Truffaut
テリー・ガー ロニー・ニアリー役 Teri Garr
メリンダ・ディロン ジリアン・ガイラー役 Melinda Dillon
ケリー・ギャフィ バリー・ガイラー役 Cary Guffey
フィリップ・ドッズ ジャン・クロード役 Philip Dodds
ショーン・ビショップブラッド・ニアリー役 Shawn Bishop
アドリアンヌ・キャンベル シルビア・ニアリー役 Adrienne Campbell
ジュスティン・ドレイファス トビー・ニアリー役 Justin Dreyfuss
ランス・ヘンリクセン ロバート役 Lance Henriksen
ジョージ・ディセンゾ ベンチリー少佐役 George DiCenzo
1977年 アカデミー賞受賞
撮影賞 ヴィルモス・ジグモンド
特別業績賞 ベン・バート(音響効果に対して)

1977年 アカデミー賞ノミネート
監督賞 スティーブン・スピルバーグ
助演女優賞 メリンダ・ディロン
作曲賞 ジョン・ウィリアムズ
美術監督・装置賞 ジョー・アルヴス(美術)、ダン・ロミーノ(美術)、フィル・エイブラムソン(装置)
特殊効果賞 ダグラス・トランブル、ロイ・アルボガスト、マシュー・ユリシック、リチャード・ユリシック、グレゴリー・ジェイン
音響賞 ジーン・S・カンタメッサ、ロバート・ニドソン、ロバート・J・グラス、ドン・マクドゥガル
編集賞 マイケル・カーン

1978年 ゴールデングローブ賞ノミネート
監督賞作品賞作曲賞脚本賞

1979年 グラミー賞受賞
最優秀映画用アルバム作曲賞 ジョン・ウイリアムズ
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