■役者人生を賭けて…ダスティン・ホフマンが女装に挑戦!? 『トッツィー』
 誰もが驚く華麗な女装姿を見せて、本作を爆発的ヒットに導いたのはダスティン・ホフマンですが、この作品でアカデミー賞を獲得したのはジェシカ・ラングです。もちろん、演技達者なホフマンもノミネートされましたが、オスカーを獲得したのはラングのほうでした。いったいなぜなのでしょうか。そのあたりのことも探りつつ、コメディ映画の傑作『トッツィー』をご紹介していきましょう。
 本作を監督したのはシドニー・ポラックです。『スクープ・悪意の不在』('81)、『ザ・ファーム/法律事務所』('93)、最近では『シャンプー台のむこうに』(00)などを監督しています。彼はもともと俳優を目指してニューヨークへやってきました。『ザ・プレイヤー』('92)、『アイズ ワイド シャット』('99)などで存在感のある演技を見せており、『トッツィー』にもマネージャー役で出演しています。彼は始め、俳優として演技を学んでインストラクターとなり、やがてハリウッドでテレビの脚本や演出を手掛けるようになって、映画監督の道を歩むことになりました。“俳優の心を掴むのがうまい監督”として名を馳せ、当時ダスティン・ホフマンはかなりの出演オファーがあったようですが、ポラックが監督する作品と聞いて即座に出演を決めたそうです。
 また、ジェシカ・ラングは“『キングコング』の恋人”と言われ、あまり演技派として見られてはいませんでしたが、ポラック監督直々に依頼を受けて出演。見事に才能を開花させ、『トッツィー』と『女優フランシス』('82)とでオスカーにダブル・ノミネート。見事『トッツィー』で助演女優賞を獲得しました。なお、本作では助演女優賞にテリー・ガーも同時にノミネートされています。

 1982年、第55回目のアカデミー作品賞にノミネートされた作品は現在でも名作、傑作とされる映画ばかりが揃っています。作品賞にノミネートされたのは、本作と、『評決』、『ミッシング』『E.T.』、『ガンジー』があり、どれが取ってもおかしくないといわれるほど優れた作品が揃いました。その中でオスカーを獲得したのは『ガンジー』でした。主演男優賞も『MY FAVORITE YEAR』のピーター・オトゥール、『評決』のポール・ニューマン、『ガンジー』のベン・キングズレー、『ミッシング』のジャック・レモン、そしてホフマンがノミネートされ、キングズレーが受賞しました。演技に優劣をはっきりつけることができるかというと難しいところですが、この年は名優たちが勢ぞろいし、本当に接戦でした。しかし、ホフマンの演技は素晴らしく観客を魅了し、『トッツィー』は日本でも大ヒットとなりました。

 『トッツィー』のオスカー・ノミネート数は、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、主演男優賞など、10にものぼります。特に脚本は構成や各キャラクターの完成度が高く、今でも大学の映画関連の脚本クラスで使用されるほど。撮影賞にノミネ―トされたオーウェン・ロイズマンはポラックの作品では常連の撮影監督で、演劇的に「とてもきれいなリアリティ」を、と強調する監督の意見に忠実に従い、ホフマンの女装シーンですらリアルでありつつ可愛らしく見せることに成功しています。歌曲賞にノミネ―トされた曲 、「君に想いを(It Might Be You)」は“ミスター・ロマンティック”ことスティーヴン・ビショップが歌い、スマッシュヒットに導きました。本作はアカデミー賞以外にも、NY批評家協会賞、LA批評家協会賞、ゴールデン・グローブ賞など、数々の賞を受賞しています。


■ストーリー

 こだわりの多い役者であるがゆえにニューヨーク中のプロデューサーを敵に回し、さっぱり仕事が回ってこないマイケル・ドーシー(ダスティン・ホフマン)。ガールフレンドのサンディ・レスター(テリー・ガー)がメロドラマのオーディションに落ちるのを見て一計を案じる。彼は“ドロシー・マイケルズ”と名乗って女装し、見事TVドラマの婦長役を勝ち取ることに成功する。一躍人気者になったマイケルの秘密を知っているのは、マネージャーのジョージ(シドニー・ポラック)とルームメイトのジェフ(ビル・マーレイ)だけ。すべてはトントン拍子に進んでいたが、“ドロシー”が共演者のジュリー・ニコルズ(ジェシカ・ラング)を好きになり、ジュリーの父が“ドロシー”に恋をしてしまい…。


■この作品、ココをチェック!
ダスティン・ホフマンの“可愛いコちゃん”ぶりを大胆チェック!
 “トッツィー”という言葉には“可愛いコちゃん”という意味があります。ホフマンはドロシー役を演じるため、メイクに3時間もかけ、のどぼとけを隠すためにハイネックの衣装を身につけたりスカーフを巻いたり…とありとあらゆる様々な工夫を凝らしました。この努力のおかげで、劇中では見事に大役をゲット! しかしこれがネックとなってマイケル自身は苦しい立場に負い込まれるわけですが、その心情もきめ細かく演じています。サスペンス映画でないのにも関わらずハラハラドキドキさせてくれるのは、脚本のうまさとホフマンの演技力によるものでしょう。早速作品をチェックして彼の可愛いコちゃんぶりを観察してみてくださいね!

○ダスティン・ホフマン プロフィール

 1937年8月8日生まれ。カリフォルニア州ロサンゼルス出身。かつて映画監督を目指し大道具係もしたことのある家具職人の父ハリーと、大の映画ファンである母リリアンとの間に生まれる。彼の名前はサイレントのスター、ダスティン・ファーナムから取られた。幼い頃からピアニストを目指し、ロサンゼルスの音楽院に通っていた。サンタモニカ・カレッジでも音楽科専攻だったが、やがて俳優に憧れるようになり、パサデナ・プレイハウスで勉強を始める。58年に音楽院を卒業後ニューヨークへ。アクターズ・スタジオで学びながら皿洗い、ウェイター、ダンスホールの床磨きなど様々なアルバイトをしてチャンスを待つが売れない時期が続く。この時期、アパートの同居人だったのがジーン・ハックマンとロバート・デュヴァルだった。やがて舞台で注目され始め、67年『Tiger Makes Out』の端役で映画デビュー。その後、マイク・ニコルズ監督に認められて『卒業』('67)の主役ベンジャミンに大抜擢。アカデミー主演男優賞にノミネートされて注目を集める。以後『真夜中のカーボーイ』('69)、『レニー・ブルース』('74)でオスカーノミネート。『クレイマー、クレイマー』('79)で念願の主演男優賞を受賞した。82年に『トッツィー』でノミネートされた後、『レインマン』('88)で再び主演男優賞を受賞。69年、元バレリーナのアン・バーンと結婚し、二女がもうけるが79年離婚。80年、リサ・コッテスゲンと再婚、三児がいる。


■『トッツィー』('82)

『トッツィー』('82)
原題:TOOTSIE

発売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
価格:¥3,800(税抜)
仕様:TSDD-10142(セル専用)
DISC TYPE:片面1層
画面サイズ:スクィーズ/シネスコサイズ
◎チャプター付

<スタッフ>
監督:シドニー・ポラック Sydney Pollack
製作:シドニー・ポラック Sydney Pollack
   ディック・リチャーズ Dick Richards
原案:ラリー・ゲルバート Larry Gelbart
   ドン・マクガイア Don McGuire
脚本:ラリー・ゲルバート Larry Gelbart
   マレー・シスガル Murray Schisgal
撮影:オーウェン・ロイズマン Owen Roizman
作詞:アラン・バーグマン Alan Bergman
   マリリン・バーグマン Marilyn Bergman
音楽:デイヴ・グルーシン Dave Grusin
<キャスト>
マイケル・ドーシー/ドロシーマイケルズ :ダスティン・ホフマン
ジュリー・ニコルズ:ジェシカ・ラング
ジェフ・スラーター:ビル・マーレイ
サンディ・レスター:テリー・ガー
ジョージ・フィーズ:シドニー・ポラック
ジョン・ヴァン・フォーン:ジョージ・ゲインズ
エイプリル:ジーナ・デイヴィス


<アカデミー賞受賞>
■ 助演女優賞 ジェシカ・ラング

<アカデミー賞ノミネート>
□ 作品賞
□ 主演男優賞 ダスティン・ホフマン
□ 助演女優賞 テリー・ガー
□ 監督賞 シドニー・ポラック
□ 脚本賞 ラリー・ゲルバート、マレー・シスガル、ドン・マクガイア
□ 撮影賞 オーウェン・ロイズマン
□ 歌曲賞 アラン&マリリン・バーグマン作詞/デイヴ・グルーシン作曲 『君に想いを(It Might Be You)』
□ 音響賞 アーサー・ピアンタドーシ、レス・フレンショルツ、ディック・アレクサンダー、レス・ラザロウィッツ
□ 編集賞 フレドリック・ステインキャンプ、ウィリアム・ステインキャンプ
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