南部の夜の熱気の中、クールな黒人刑事が事件を追う!
 今年発表された第74回アカデミー賞が、歴史を塗り替える画期的なものとなったのは、映画好きの皆さんならご存知の通り。ハル・ベリーがアフリカン・アメリカンとして史上初の主演女優賞を、またデンゼル・ワシントンが史上2度目、38年ぶりの主演男優賞を獲得。ハリウッドのみならず、全米がこのニュースに沸き立ちました。

 そしてもう一人忘れてはならないのが、名誉賞に輝いたシドニー・ポワチエです。63年、アフリカン・アメリカン俳優として初の主演オスカーを手にしたポワチエもまた、今回の記念すべきアカデミー賞の話題の人でした。今回ピックアップするオスカー作品は、ハリウッドのマイノリティ系人種の先駆者としてトップの地位を築き上げたシドニー・ポワチエ主演のミステリー・サスペンス『夜の大捜査線』です。


■ストーリー

 アメリカ南部ミシシッピーの片田舎、一人の黒人男性が夜の列車から降り立つ。ちょうどその夜、町を巡回していた警官サム(ウォーレン・オーツ)は、路上で男の死体を発見。死体は町に工場を誘致しようとしている権力者だった。サムは駅で始発列車を待っていた黒人のヴァージル(シドニー・ポワティエ)を不審に思い、保安官ビル(ロッド・スタイガー)の元へ連行する。だが、よそ者の黒人というだけで、殺人犯に仕立て上げられようとしたヴァージルは、実はフィラデルフィア署の殺人科刑事だった。

 人種差別の蔓延る南部の町で、切れ者の黒人刑事ヴァージルは、上司から殺人事件捜査の協力を指示される。偏狭な南部人の保安官ビルと北部のクールな黒人刑事ヴァージルは、お互いに反感を覚えながらも事件捜査に乗り出す。
 論理的かつ科学的な観点から殺人犯を洗い出そうとするヴァージルに反感を持ったのは、感情的で素朴すぎるビルだけではなかった。地元の若者たちも人種差別的憎悪を剥き出しにして、ヴァージルを追い詰めようとする。危険が迫りながらも真犯人を究明しようとするヴァージル。やっかい事が起こらぬうちに町を去れといいながらも危機が迫るヴァージルを助けるビル。彼らの間にはいつしか人種を超え、お互いをリスペクトする気持ちが通いはじめる。そして暑い南部の夜、意外な展開で殺人犯が暴かれる・・・。


■この作品、ココをチェック!

 アメリカ公民権運動の真っ只中に制作されているこの作品は、時代のムーブメントと切っても切り離せない存在です。映画が作られた60年代とは、いったいどんな時代だったのでしょう。
 63年ワシントンで公民権運動の大行進があり、マーティン・ルーサー・キング牧師はここで「I have a dream」という一説で始まる歴史的演説を行う。同年、当時の大統領ケネディーが公民権法案を提出。ケネディーは暗殺されてしまうが、公民権法案は可決される。その結果、黒人にも投票権が与えられるが、投票権登録を行う際に妨害にあったり、テロが発生するなど、実際の平等を得ることが出来たとは言いがたい。特に保守的な南部においては、黒人の地位向上など有り得ない状況だった。

 真実の平等と自由を手に入れるため、公民権運動はその後も激しく加熱していくが、65年、黒人解放運動の指導者マルコムXが暗殺され、68年にはノーベル平和賞に輝いたキング牧師もまた暗殺される。『夜の大走査線』はちょうどその大事件の狭間、67年度に製作された。
 冒頭とラスシーンでレイ・チャールズが歌う映画のオリジナル・タイトルでもある主題歌「In the Heat of the Night(夜の熱気のさなかに)」は、まさしく当時の状況を表現している。「ほんの少しの光のためにでも、俺はソウルを売るだろう。困難は次から次へとやってくるが、いつか終わりが来るはずだ。夜の熱気のさなかに」と歌い上げるレイ・チャールズのブルーズには、切なさと希望が込められている。

 当時もまだ、黒人たちが綿畑で重労働者として働かされていた南部。そんな背景を舞台に、北部の黒人エリート刑事が、保守的なレッド・ネック保安官と反発しながらもお互いに心を通わせていくこの映画は、エンタテイメントとしての出来のよさもさることながら、時代を象徴し歴史を物語る作品となっている。
 ちなみに、この映画で主演男優賞を獲得したのは、保安官ビル役のロッド・スタイガー。作品賞にも輝いたこの作品で、一番重要な役柄を担ったシドニー・ポワチエはノミネートすらされていない。63年『野のユリ』では、“気の良い流れ者”を演じアカデミー主演男優賞を獲得したポワチエ。やはり“黒人エリート刑事”が受け入れられる時代ではなかったということなのだろう。

 今年のアカデミー賞により、真実「扉が開かれた」のかどうかはまだわからない。しかし少なくとも「ほんの少しの光」となったことは間違いない。


■『夜の大捜査線』('67)

<映像特典>
音声解説(監督・キャスト)
オリジナル劇場予告編

発・販:20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン(株)
原題:IN THE HEAT OF THE NIGHT
<期間限定生産> 2,500円(税抜)
110分 片面2層 カラー
1.オリジナル(英語)モノラル 
1.英語字幕 2.日本語字幕 
ビスタ
<スタッフ>
監督:ノーマン・ジュイソン
脚本:スターリング・シリファント
原作:ジョン・ポール
音楽:クインシー・ジョーンズ
主題歌:レイ・チャールズ

<キャスト>
シドニー・ポワチエ  ヴァージル
ロッド・スタイガー  ビル
ウォーレン・オーツ  サム
<アカデミー賞 >

■ 作品賞
■ 主演男優賞 ロッド・スタイガー
■ 脚色賞 スターリング・シリファント
■ 音響賞 サミュエル・ゴールドウィン・スタジオ
■ 編集賞 ハル・アシュビー

<アカデミー賞ノミネート>
 
□ 監督賞 ノーマン・ジュイソン
□ 音響効果賞 ジェームズ A. リチャード
<その他の受賞>

☆NY批評家協会賞
■ 作品賞
■ 男優賞 ロッド・スタイガー
 
☆ゴールデン・グローブ
■ 作品賞(ドラマ)
■ 男優賞(ドラマ) ロッド・スタイガー
■ 脚本賞 スターリング・シリファント
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