ジョン・C・ライリー John C. Reilly
 どんな主役も輝かせる世話女房的な懐の広さ。ハリウッドきってのバイプレーヤー、ジョン・C・ライリーの魅力

 とかく映画では監督や主演の俳優ばかりに話題が集中しがちですが、俳優のなかには名バイプレーヤーとして高い評価を受ける人たちがたくさんいます。キャストのクレジットでは、必ず3~4番目あたりに名前が載るような彼らですが、確かな演技力と強い存在感、他の誰にもないような個性を持つ役者が多いのも事実。前回、このコーナーで取り上げたフィリップ・シーモア・ホフマンもそうですが、彼の友人ジョン・C・ライリーもハリウッドきっての名バイプレーヤーです。どこかで必ず一度は見ているライリー。これを機会に、ぜひ顔と名前を一致させてください。

 1965年5月24日、アメリカはイリノイ州シカゴ生まれ。アイルランド系移民の労働者階級出身で、本名はJohn Christopher Reilly。
 子供時代より演技に興味を持ち、名門校として名高いディポール大学のグッドマン演劇クラスに入学。シカゴで舞台俳優として活躍後、89年にブライアン・デ・パルマ監督の『カジュアリティーズ』で映画デビュー。戦争下でのレイプ事件を扱ったショッキングな作品で、ジョン・C・ライリーは仲間とベトナム少女をレイプする兵士の一人を演じている。ちなみに、この作品でショーン・ペンと共演したライリーは『俺達は天使じゃない』('89)や、テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』('98)でもペンと共演している。
 『ギルバート・グレイプ』('93)ではジョニー・デップの親友役で、デップの家を直したり、バーガー・キングで働いたりしていたライリー。こういう何ということのない、普通すぎるほど普通の男を“ちょっと気になる”感じに演じられるのも、ライリーの大きな魅力だろう。
 フィリップ・シーモア・ホフマン同様、ポール・トーマス・アンダーソン作品の常連俳優として知られ、『ハードエイト』('96)『ブギーナイツ』('97)『マグノリア』('99)と続けて出演。『ハードエイト』では珍しく準主役を務めている。とはいえ、母親の葬儀代を稼ぐためにカジノに乗り込み、一文無しになったところを老齢のベテラン賭博師に拾われるという、いかにもライリーらしい哀愁漂う役を演じている。

 『マグノリア』ではコカイン中毒の娘に思いを寄せる心優しい警官を好演。メインキャスト12名の物語が均等に描かれるこの作品のなかで、ラストには彼らから抜け出し、事実上の主役として物語の幕を閉める大役を任されたライリー。その大役を見事にこなし、素晴らしい演技をフィルムに残している。さすがは変わり者のアンダーソンが目を付けるだけのことはある。イカついのに、どこかチャウチャウを思わせるその顔こそ、ライリーの一番の魅力。きれいな顔には出せない深みがあり、あの顔がすでに<ドラマ>になっている。
 ドリュー・バリモア主演のラブ・コメディ『25年目のキス』('99)では、シカゴ新聞社におけるバリモアの上司役で登場。バリモアを化けさせて高校に潜入させながら、彼女を叱咤しつつ、内心とても心配している男を演じたライリー。『ブギーナイツ』のマジシャンを夢見る若い男から一変、経験を積んだ堂々たる中年男になりきっていた。このライリーだけ見ると、とても1965年生まれには見えないからすごい。
 ロングラン大ヒットをした話題のミュージカル映画『シカゴ』(02)では、レニー・ゼルウィガー演じるロキシーをひたすら愛する夫エイモス・ハートの演技で、見事にアカデミー賞最優秀助演男優賞にノミネート。この年のライリーの活躍には目を見張るものがあり、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01)『めぐりあう時間たち』(02)と話題の大作に続けて出演。しかもそれぞれに個性的でまったく違う役どころばかり。映画界がいかにライリーに注目しているかがわかるというもの。これからますますの活躍が期待される“影の大物俳優”から目が離せない。


■話題の出演作でチェック!
スクリーンには映らない物語まで想像させる 『めぐりあう時間たち』での演技
 ニコール・キッドマンがアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得し、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープなど、実力派の豪華キャストが揃った『めぐりあう時間たち』。三つの異なる時代に生きる三人の女性の“ある一日”を並行しながら、女性にとって「自分の人生を自由に生きる」とは何かを描いた秀作として、多くの女性の共感を得た。
 この作品でライリーが演じるのは、ジュリアン・ムーア演じるローラの夫。何の問題もないように見える平凡な一般家庭。しかし、ローラは自分の居場所がそこにはないことを感じ、家族を捨てる決断をする。夫は何も知らない。
 ライリーはほんのわずかの出番で、妻ローラとの心の距離、人生や家庭に対する姿勢の大きなズレを見事に表現している。だからローラが家族を捨てて家を出たときも、ローラの気持ちが痛いほどわかりながら、観客は「この後、あの夫はどうなるのだろう」というスクリーンには映らない物語に思いをめぐらせることになる。


■興味深いライリーのコメント

「僕にとって劇場は教会」
カソリックで教会にも通うライリー。「今では劇場が僕の教会だ」とよく言っていた。演じることは、彼にとってとてもスピリチュアルなものだという。

「15年間、映画の世界にいてわかったのは、ある作品が本当にいい作品になるか、興行的に成功するか、予知するのは不可能だということ。すべてがうまくいって観客も作品を気に入るなんてことは奇跡的で、めったにない」
さすが、30本近くの出演作品を持つ彼だからこその、説得力あるコメント。


■過去の出演作でチェック
こんなところやあんなところにもいた! どこかで必ず見たことのあるライリーの顔
『ギルバート・グレイプ』('93)
アイオワ州の片田舎。生まれ育った町を24年間出たことがない青年ギルバートは、知的障害児の弟アーニー、夫亡きあと過食症を病む250kgの母親、2人の姉妹の面倒を見ている。家族を守ることに精一杯で、自分の夢や希望を見失ってしまっているギルバート。しかし、彼の前にベッキーという少女が現れてから、彼のなかで何かが変わっていく。青春の苦悩と痛み、未来への苛立ちと希望などが、時にシビアに、時に温かく描かれる。ラッセ・ハルストレム監督による慈愛に満ちた美しい映像と、役者たちのすばらしい演技が爽やかな感動を呼ぶ秀作。
発売元:アスミック/東芝デジタルフロンティア
販売元:パイオニアLDC
DVD価格:\3,800(税抜)
『パーフェクト・ストーム 特別版』(00)
1991年10月、前回の不漁を挽回するために、1隻の漁船がマサチューセッツ州の港を出た。ところが、大型ハリケーンが発生、観測史上例のない大嵐となる。だが漁船は漁を続けた。彼らはまだ知らなかった。自分たちが100年に1度とも言われる伝説の大嵐“パーフェクト・ストーム”に遭遇していることに…。 グロスターという漁港で起こった実話をもとに、SFXを駆使して映像化した海洋スペクタクル。監督は『Uボート』などのウォルフガング・ペーターゼン。序盤は海に生きる男たちの漁の模様を力強く描き、後半では空前の大嵐をリアルに盛りあげる。
発売・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
DVD価格:\2,500(税抜)
『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01)
1861年、ニューヨーク。縄張り争いを繰り広げる移民同士の抗争により、目の前で父親を殺された少年アムステルダム。自らも投獄された彼は、15年の時を経て、父を殺したギャング組織のボス、ビルへの復讐を誓い、この地に帰ってきた。素性を隠し、ビルの組織に入り込んだアムステルダムは、そこで美しくも謎めいた女ジェニーに出会い、許されない恋に落ちる……。マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演、ダニエル・デイ=ルイス、キャメロン・ディアス共演で贈る知られざるニューヨークの歴史。
発売・販売元:松竹
DVD価格:\16,000(税抜)
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