ジュリアン・ムーア Julianne Moore
 赤い髪に透きとおるような白い肌。今、乗りに乗っているクラシカルな美人女優ジュリアン・ムーアの魅力

 「実は、彼女のことは、一緒に仕事をする前から一番好きな女優さんだったんだ。実際に彼女を知って、彼女と会って、彼女と一緒に仕事をするようになって、前よりもっと彼女が好きになった。脚本を書いていると、僕の頭のなかで彼女の声が響いてくるんだ」

 読んでいるこちらが赤面しそうな愛の告白。ポール・トーマス・アンダーソン監督から愛情たっぷりに“彼女”と呼ばれているのは、女優のジュリアン・ムーア。アンダーソンのお気に入り女優であり、今、ハリウッドで最も旬な女優の一人です。

 一歩間違うと冷淡に見られるような古典的な美人顔のジュリアン・ムーア。本来なら、この手の女優は役の幅が狭まったり、決まった役しか回ってこないものです。しかし彼女は観客の胸にグッとくるその表現力で、どんな役も自分のものにしてきました。大らかな母性と強さを持つ大地のような女優ジュリアン・ムーアをクローズアップします。
 1960年12月3日、ノース・カロライナ州に生まれる。本名Julie Anne Smith。母親はスコットランド人のソーシャルワーカー、父親は軍裁判所の判事。両親の仕事の関係で、幼い頃から世界中を転々としながら暮らす。小さい頃はどのクラスにも必ずいるような、背が低くてメガネをかけた、外では遊ばないような子供だったという。

 ボストン大学で演劇の学士号を取得した後、ニューヨークに移り、演劇の世界に身を置くようになる。しかし、正式な演技訓練を受けたにもかかわらず、80年代半ばからテレビのソープオペラやミニシリーズばかりに出るようになる。
 90年代に入ってから映画に出演し始め、出演を重ねるごとに女優としての才能も開花し、小さいけれど忘れがたい役を演じる。94年、ルイ・マル監督の『42丁目のワーニャ』での演技が高い評価を受け、『ショート・カッツ』('94)『9か月』('95)『暗殺者』('95)などの話題作に出演するようになる。しかし、彼女が一番最初に主役を演じたのはトッド・ヘインズ監督の『SAFE』('95)。この作品で彼女が演じた裕福な主婦キャロル・ホワイトは批評家からも絶賛され、インディペンデント・スピリット・アワードにノミネートされた。
 97年にはポルノ産業の内幕を描いた『ブギーナイツ』でアカデミー助演女優賞に、2000年には『ことの終わり』で主演女優賞にノミネートされる。前者では伝説的なポルノ女優を、時に孤独な女性として、時に包容力のある母として見事に演じたムーア。以降は次々と話題作に出演し、彼女の名前を見ない日はない、というほどの多忙ぶり。

 2001年、『羊たちの沈黙』('90)の続編『ハンニバル』で、前作においてジョディ・フォスターが演じたFBI捜査官クラリス・スターリング役を獲得。候補女優にはヘレン・ハント、ジリアン・アンダーソン、ケイト・ブランシェットという実力派の名前が挙がっていた。
 「人生で最もすばらしいことのひとつ。物事に対して以前よりずっと多くの理解ができるようになるの。そういう意味で、これは贈り物ね。私はとても幸せで、とても幸運だわ」と出産の喜びを語るジュリアン・ムーア。母親になり、女性として、女優として、これからますます輝きを増すであろう彼女は、自身の人生の輝きと、女優という職業での輝きを見事に融合させた理想的なキャリアの積み方をしている。


■監督に愛される女優

●舞台「ワーニャおじさん」を演出したアンドレ・グレゴリーはジュリアン・ムーアを、「ジョーン・クロフォードの官能性と執拗さに、もっと深みと矛盾を持たせた感じ」と評している。

●『42丁目のワーニャ』を監督したルイ・マルは「ジュリアン・ムーアはジャンヌ・モローの持つ荒廃した美のすべてをよりすばらしくした感じだ」と最大級の賛辞を贈っている。


■これからの活動は? 最新映画でチェック
往年のハリウッド映画に捧げたオマージュ
 ジュリアン・ムーアの最新作は、本年度アカデミー賞主要4部門<主演女優賞・脚本賞・撮影賞・作曲賞>にノミネートされ、世界中から高い評価を得ているトッド・ヘインズ監督の『エデンより彼方へ』。「メロドラマというものは、全てがリアリティとは程遠く過剰に理想化される一方、そこに描かれる人間の心理については気味悪いほど正確だったりする」と監督自身が語るように、50年代ハリウッドのメロドラマを模倣した“究極のメロドラマ”という異色作。
 1957年、コネティカット州ハートフォード。一流企業の重役フランク(デニス・クエイド)を夫に持ち、二人の子供にも恵まれ、何不自由ない暮らしを送る主婦キャシー(ムーア)。だが、夫の浮気が発覚。それを知った彼女は、表面上は何事もなかったかのように振る舞い続けるものの、黒人庭師レイモンド(デニス・ヘイスバート)との交流に安らぎを求めるようになる。だが、閉鎖的なハートフォードは二人のプラトニックな関係さえも許してはくれず……。
 衣装からセットにいたるまで、すべてに“作り物”感があふれるこの作品。まさに50年代のスタジオ映画のようなヴィジュアルで、その徹底振りには脱帽してしまう。


■ここもチェック! 話題の出演作

『クッキー・フォーチュン』('99)
 小さな田舎町で、ある老女の自殺が殺人と偽装されたことで巻き起こる騒動を描いた異色コメディ。南部の片田舎に住む老女クッキー(パトリシア・ニール)が自殺した。その死体を発見した姪のカミール(グレン・クローズ)は偏執狂的なカトリック信者で、“自殺なんて家の恥”と妹のコーラ(ジュリアン・ムーア)に命じて強盗殺人を偽装してしまう。事件なんて起こったこともないのんびりした町は一転、強盗殺人に大騒ぎとなり……。監督は『ザ・プレイヤー』『ショート・カッツ』のロバート・アルトマン。アルトマンらしい皮肉やブラックなユーモアを織り込みながらも、アメリカ南部の静かな田舎町とそこに暮らす人々を温かく詩情豊かに描き、なんとも味わい深い一作に仕上がっている。
発売・販売元:エスピーオー
DVD価格:\4,800(税抜)
『ハンニバル』(01)
 猟奇殺人鬼バッファロー・ビル事件のヒントを新米捜査官クラリスに解き、事件を解決に導いたハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)。護送中に逃亡を測った彼が、10年たった今、フィレンツェに潜伏していることが確認された。逃亡生活を続けながらFBI捜査官クラリス(ジュリアン・ムーア)の動向に注目していたレクターだが、かつて自分によって顔を失ってしまった大富豪が、クラリスをエサに自分の命を狙っていることを知る。そんな事を知らないクラリスは、レクターを逮捕するため彼のもとへ向かうのだが、そこで彼女を待ちうけていたものは…。前作『羊たちの沈黙』から10年、以前は檻の中からクラリスを挑発し、時として愛情まで感じられたレクター博士。彼とクラリスの微妙な関係が本作ではクローズアップされている。
発売・販売元:東宝ビデオ
DVD価格:\4,800(税抜)
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