4月7日(土)、シャンテシネにてロードショー

 96年の『トレインスポッティング』以来、注目を集めるイギリス映画。今ではジュード・ロウなど、ハリウッドスターにも劣らぬ人気を誇る若手を輩出するまでとなりました。このパワーの源はお国柄かイギリスらしさを忘れないところにあります。が、さてイギリスらしさとは何でしょう?

 日本で人気のイギリス映画と言えば大きく分けて2種類でした。それは、ダニー・ボイル監督(『トレインスポッティング』『ザ・ビーチ』)などに代表されるジェネレーションムービーと、ケン・ローチ監督(『ケス』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』)から脈々と受け継がれる社会派作品。近年ではこれが融合され、エンターテインメント性を強調したガイ・リッチー監督(『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』)や、労働者階級の若者を丁寧に描くマーク・ハーマン監督(『ブラス!』『リトル・ヴォイス』)の作品も積極的に公開されています。いずれも、イギリスらしいシニカルでウィットにとんだ表現を忘れない、頑固なところがイギリス映画の魅力のひとつ。

 今回紹介するのは、あえて分類すればハーマン監督の一派。おとぎ話のように見えて実話だということにも注目です。長い歴史と文化を持ちつつ、セックス・ピストルズに始まるパンクシーンを生み出すという不思議な度量を持った国、イギリス発の『グリーンフィンガーズ』をみてみましょう。


 “グリーンフィンガーズ”とは天才庭師のこと。主人公は自暴自棄になっている青年。ある罪で囚人となり、自主性を重んじる開放的な刑務所に送られます。そこで同室となった老人に感化され園芸を開始。その腕前が話題となり、ついには女王陛下も鑑賞する格調高いフラワーショーへのエントリーを許されるまでに。しかしそううまくは事が運ばず…。イギリスらしい背景の中、若者の心のひだをさらりと描いた作品です。

 私たち日本人にしてみれば、高い塀も鉄格子もない刑務所というだけで、映画だからと思ってしまいますが、これが実話ベースだというから驚き。プロデューサーのトラビス・スウォーズが映画化を思い立ったのも当然と言えるでしょう。そうした明るい背景の中、青年の屈折がしだいに解かれていく様が、ユーモラスに綴られます。自分の罪にさいなまれ、人を遠ざける青年。彼が園芸を通し出会った友人や恋人との触れ合い、そして草花という生命を育てることの喜びを知り、人生に希望を見出していく。言ってみればこれは普遍的なヒューマン・ドラマ。そんな中に「人生何が起こるか分からない。だからこそ面白いんだ」というやんちゃなメッセージが埋め込まれています。

 このやんちゃさがこの作品の魅力。この物語をお涙頂戴の感動作に仕上げることは簡単です。しかし監督兼脚本のジョエル・ハーシュマンは、そうはしませんでした。風変わりな老人や女好きのお調子者など個性的なキャラクターを配し、それぞれを魅力的に描いています。登場人物たちの魅力といったら、先人『フル・モンティ』もびっくりなほど。細かいエピソードも大切に紡がれています。

 ある作家の言葉で、「人を泣かせるのは実は簡単なこと。でも、ちょっと切ない気持ちにさせて一粒の涙を流させるのは至難の業だ」というものがあります。本作はそんな言葉を思い出す、大人のアドベンチャー。登場人物は大人とは言えない若者たちですが、励ましたり慰めたりしない方が優しさになる場合もある、ということを分かった大人だから創れる物語になっています。そしてこれが実話なのだから、やっぱり人生捨てたものじゃない。そんな気持ちになれる愛すべき作品です。





STORY  コリン(クライヴ・オーウェン)が、自主性を重んじることで囚人の更生を図ろうという刑務所に移送される。誰にも心を開かず、いつも単独行動の彼。しかし同室となった自称画家の老人ファーガス(デビッド・ケリー)の影響で園芸を始める。それがハッジ刑務所長(ウォーレン・クラーク)の目にとまり、刑務所内の仕事として言いつけられる。チームはコリン、ファーガス、ロウ(アダム・フォガーティ)、トニー(ダニー・ダイア)、ジミー(パターソン・ジョセフ)の5人。完成した庭はガーデニングの専門家(へレン・ミレン)にも認められるほどだった。そんな中、コリンは彼女の娘プリムローズ(ナターシャ・リトル)と恋に落ちる。そして腕前を認められ、名門フラワーショーへのエントリーを許されるが、ある不祥事で取り消されてしまう。失意の中にありつつも、庭師としてのプライドから生きる希望を感じるコリン。彼の出所が許され、プリムローズとも恋仲に。が、やはり堀の中の面々が気にかかり、ある決意をするのだった。

STAFF&CAST
監督・脚本:ジョエル・ハーシュマン 製作総指揮:ダニエル・J・ビクター、トルーディ・スタイラー  製作:トビラス・スウォーズ プロダクションデザイナー:ティム・ハッチソン 出演:クライヴ・オーウェン、へレン・ミレン、デビッド・ケリー、ナターシャ・リトル、ダニー・ダイア、アダム・フォガーティ、パターソン・ジョセフ、ウォーレン・クラークほか

DATA
2000年/イギリス映画/カラー/35mm/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/91分
提供:メディアファクトリー/配給:ギャガ=コミュニケーションズ/宣伝:リベロ 
(c)2000 Greenfingers LLC. All Rights Reserved.
★公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/greenfingers/index.html


 主人公たちが作る庭の美しさも本作の見どころ。特にフラワーショーのシーンは圧巻! 実際のショー会場で撮影されただけに、その全景もすごいものですが、主人公らの作品としてスタッフが作った庭の出来ばえも見事。実際に観た一般人が出品作だと思い込み、金賞(グランプリ)を取らなかったのはおかしいと言ったというエピソードも納得です。その庭のテーマは「野生の草花がちりばめられた高速道路の土手」だそう。そのため一見雑然としていますが、自然を見事に表現したどこか懐かしく心くすぐられる作品に仕上がっています。ガーデニングが趣味のあなたも、ただ自然の美しさを味わいたいあなたも必見です。

 主人公コリン役を演じるのは『ベント 堕ちた饗宴』などのクライヴ・オーウェン(写真左)。暗さのある青年を見事に演じています。そして同室の老人には『ウェイクアップ!ネッド』のデビッド・ケリー(写真右)。風変わりな中にしっかりとした人間味を添えているのはさすが。またガーデニングの専門家ジョージナに扮するのは『英国万歳!』でアカデミー賞助演女優賞候補にもなったヘレン・ミレン。日本では著名ではないものの、知るひとぞ知る芸達者が揃って出演。他にも『ヒューマン・トラフィック』のダニー・ダイア、『スナッチ』のアダム・フォガーティや舞台・TVで活躍するナターシャ・リトルなど、覚えておきたい面々ばかりです。


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