FILE10:ロシア発『チェブラーシカ』
 7月21日(土)、渋谷ユーロスペースほかにて公開!

 2001年はなんといってもアニメーションの年。4月に公開されたクレイ(粘土)アニメーション大作『チキンラン』をはじめ、手塚治虫原作、『AKIRA』の大友克洋が脚本を書いた『メトロポリス』、ディズニー作品『ラマになった王様』、また7月20日には宮崎駿監督の新作『千と千尋の神隠し』が公開されるなど話題作が目白押し。ほかにもチェコ・アニメや人形、CGアニメーションが次々と上映されて話題を呼んでいます。
 中でもロシア・アニメは完成度も高く、世界各地で毎年のように映画祭が開催されており、有名なところでは、手塚治虫にも影響を与えた『イワンのこうま』('47)、『森は生きている』('56)、『雪の女王』('57)、『霧につつまれたハリネズミ』('75)、『話の話』('79)などがあります。宮崎駿監督が『雪の女王』を観て感動し、アニメーターを目指したというのは有名な話です。また、『話の話』('79)などの傑作を生み出したユーリ・ノルシュテイン監督はロシア・アニメ界の巨匠と呼ばれており、いまなお世界中のアニメーション作家に影響を与え続けているのです。
 さて、今回このコーナーでは、そんな数々の名作を生み出したロシアから、パペット(人形)アニメーション『チェブラーシカ』を紹介します。大きな耳に短い手足、おさるさんともクマさんともつかない何とも不思議な動物“チェブラーシカ”が繰り広げるファンタジー・アニメ。ピカチュウやスヌーピーなどに負けず劣らず可愛らしく、日本でもブレイク必至です。監督はノルシュテインの師でもあるロマン・カーチャノフ。30年前に旧ソビエト連邦で製作された作品ですが、キャラクターの精密な作りや、チェブラーシカのちょこまかとした動きは何とも微笑ましく、ロシアでは知らない人はいないといわれるほど大人気だそう。そんなファンタジックなアニメーション、『チェブラーシカ』の世界へさっそくご案内しましょう!


■ロシア生まれのパペット・アニメ“チェブラーシカ”、その愛くるしい動きに注目!

 この作品は、ロシアの詩人で児童文学家でもあり、ロシアでは大変有名な作家のエドワード・ウスペンスキーの「チェブラーシュカとなかまたち」(新読書社刊)が原作です。南の国からやってきたチェブラーシカが、ワニのゲーナと仲良くなって友達をどんどんふやしていく…といった友情物語が可愛らしい挿し絵とともに描かれています。
 “チェブラーシカ”とは、ロシア語で「すってんころりん」という意味だそう。確かに写真をみると転んでしまうのも無理ないくらい大きな頭に短い手足で、思わず“可愛い!”と叫んでしまうほど。容姿についてはチェブちゃん自身がこんなふうに語っています。「ぼくの外見の特徴は、目は大きくてみみずくみたいにぱっちりしていて、頭は丸くて、しっぽはふわふわで短いです。体全体はこげ茶色で、基本的に学問上知られていない動物です。みなさんがぼくと仲良しになってくれたらいいなと思っています」
 チェブラーシカがなぜロシアに来たのか、そのいきさつはこうです。熱帯のジャングルに住んでいたチェブちゃんが散歩をしていると、オレンジの箱が転がっていました。おなかがすいていたチェブちゃんは箱に入ってオレンジを2個食べると動くのがしんどくなり、なんと眠ってしまったのです。チェブちゃんが気がつくとすでに箱はクギで蓋をされており、しかたなくオレンジを食べてまた眠ってしまいました。すっかり太ってしまったチェブちゃんは、手足がしびれてちゃんと座ることができません。そのせいで絶えずぱったり倒れてしまい、“チェブラーシカ”と名づけられたのです。
 チェブちゃんのほかにも重要なキャラクターがでてきますので簡単に紹介しましょう。まず、ワニのゲーナ。出身はアフリカで、現在50歳ですがワニの寿命からするとまだまだ若いほう。メランコリックなところもありますが、几帳面で礼儀正しい性格です。アコーディオンを弾くのが得意で、趣味は読書です。もうひとり、怪盗おばあさんシャパクリャクは若い頃アメリカでスパイをしていました。彼女の仕事は“悪いこと”のコレクションです。鳩をパチンコで打ったり、ごみ箱をひっくり返したりして警察の「悪ふざけをする年金生活者監督局」の帳簿い登録されています。飼っているどぶねずみのラリースカと一緒にあちこちに出没し、悪さをするのです。
 『チェブラーシカ』は、本国ロシアではTV番組のゴールデンタイムに放送され、日本で言うなら『サザエさん』、『ドラえもん』と同じくらい有名で、ロシアで知らない人はいないといわれるほど。愛くるしいチェブラーシカとワニのゲーナが繰り広げる物語はとてものどかでファンタジックですが、どこかロシア的な哀愁を漂わせてもいるのです。


■STORY

○第1話『こんにちわチェブラーシカ』('69)

オレンジの木箱を開けてみたら、中から不思議な動物が。果物屋のおじさんは、その生き物を“チェブラーシカ”と名づけて動物園に預けようとしますが、正体不明の動物を引き取ってはくれません。一方、動物園で“ワニ”として働くゲーナは一人ぼっちで寂しいので友だちを募集することにしました。張り紙を見て知り合ったチェブラーシカとゲーナは、もっとたくさん友だちをつくろうと、“友だちの家”を作り始めます。はたしておうちは完成するのでしょうか?
○第2話『ピオネールに入りたい』('71)

今日はゲーナの誕生日。チェブラーシカからのプレゼントで遊ぶうち、ピオネール(ボランティアや社会活動を行なうボーイスカウトのような組織のこと)の4人組に出会います。かっこいい少年たちをみて、チェブラーシカとゲーナはピオネールに入れて欲しいとお願いしますが、不器用なふたりに入団を許してはくれません。意地になったふたりは子供の広場をつくりますが、手伝ってくれようとした4人を突っぱねてしまいます。ピオネールに入りたかったチェブラーシカは残念がりますが…。
○第3話『チェブラーシカと怪盗おばあさん』('74)

ゲーナとチェブラーシカは海水浴に行こうと列車に乗り込みますが、いたずら好きの怪盗おばあさんシャパクリャクがふたりの切符を盗んでしまいます。車掌さんに怒られたふたりは線路沿いを歩いて帰るハメに。道に迷って密猟者の罠にはまったりと散々な目にあってしまいますが、シャパクリャクの機転で一泡吹かせることができ、一行は川辺にたどり着きます。その川で遊んでいた子供たちが妙に汚れているのを見て、ゲーナは排水をたれ流している工場に乗り込みますが…。


■DATA

『チェブラーシカ』

1969~74年/ロシア映画/カラー/スタンダード/64分

監督:ロマン・カーチャノフ
原作:エドワード・ウスペンスキー
 
配給:プチグラパブリッシング/宣伝:FRAP.

(C)2001 PETIT GRAND PUBLISHING,INC.
■『チェブラーシカ』公式サイト> http://www.cheb.tv/


■ロシアの天才アニメーション監督、ロマン・カーチャノフ

 エドワード・ウスペンスキーの「チェブラーシュカとなかまたち」を映像化したのがロシアの天才アニメーション監督、ロマン・カーチャノフです。人形をひとつひとつ丁寧に動かして撮影し、生命を吹き込みました。日本ではあまり知られていませんが、『霧につつまれたハリネズミ』などのアニメ作家ユーリ・ノルシュテインの師でもあり、ノルシュテインも『チェブラーシカ』シリーズに参加しています。
 カーチャノフは1921年に生まれ、46年に連邦動画スタジオ(ソユーズムリトフィルム。旧ソ連最大の映画制作所)の監督コースに入り、約12年の間に『森は生きている』、『雪の女王』などのレフ・アマータノフ、イワン・イワノフ=ワノといった巨匠たちの代表作で美術監督を務めます。その後、連邦動画スタジオに入り、1958年に『老人と鶴』で監督デビューを飾りました。パペット・アニメーションを数多く手掛け、『太陽に灼かれて』('94)のニキータ・ミハルコフ監督の父セルゲイ・ミハルコフが脚本を書いた『ママ』('72)、革命のシンボルを語った『オーロラ』('73)、長編SF『第三惑星の秘密』('81)などを製作しています。犬を飼えない女の子が毛糸の手袋を犬に見たてて散歩をしていたら本物の犬になってしまった…という作品、『手袋』('68)は、アヌシー・アニメーション・フェスティバル等で様々な賞を受賞しました。
 残念ながらカーチャノフ監督は既に亡くなっていますが、現在はノルシュテイン監督らがその作風などを受け継いでいます。幻想的でロマンティックな作風の中に、社会問題や人間関係などの普遍的なテーマを据え、暖かみのある作品を次々と生み出しました。『チェブラーシカ』シリーズにもその片鱗が伺えます。


■チェブラーシカたちの住むロシアってどんな国?

 チェブラーシカたちが住む国ロシア。ペレストロイカ(ロシア語で「再建」の意味)後の1991年にソビエト連邦が解体し、社会主義体制から市場経済体制へと移行したロシアですが、この国民的キャラクターは旧ソ連時代に作られました。この『チェブラーシカ』では旧ソ連やロシアを知ることができるシーンがいくつかあります。
 海水浴に向かうゲーナとチェブラーシカの行き先は黒海の避暑地であるヤルタ。モスクワっ子にとって夏休みにヤルタといったリゾート地に行って肌を焼いてくるのはちょっとしたステイタスになるんだそう。人口10万人の観光地で、現在はウクライナ領クリミア自治州に属し、旧ソ連時代には皇帝や貴族の別荘が国有化されてリゾート地となったところです。
 走っている列車はロシア鉄道で、この鉄道は総延長が86,000キロメートルもあり、世界一長い鉄道のひとつです。ウラジオストクからモスクワまで約9000キロを横断するシベリア鉄道を含んだこの鉄道は、毎年10億人以上もの旅客を輸送しています。また、ゲーナたちが列車から追い出されてとぼとぼと帰るのはモスクワです。モスクワにはクレムリンや赤の広場、聖ワリシー寺院、ボリショイ劇場などがあり、現在はロシア連邦の首都になっています。


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