FILE19:甦る!情熱のゴダール『パッション』『ゴダールのマリア』

 新作『愛の世紀』(01)を筆頭に、ジャン=リュック・ゴダール作品が未公開、リバイバル含めて次々と上映されている2002年は、日本におけるゴダール年とも云われているほど。映画好きならきっと一度は通らねばなるまいゴダール関門を体験するには、またとないチャンスの年。今回このコラムで紹介するのは、80年代のゴダールを代表する2作品です。
 政治とビデオの実験映像に明け暮れた70年代から、再び映画界に返り咲いたといわれた『パッション』('82)。そして公私ともにパートナーであるアンヌ=マリー・ミエヴィル監督との共作『ゴダールのマリア』('84)。今なおその挑発性と独創性において特別の輝きを放っているこの2作品が、無修正版として今世紀に甦り、改めてゴダールの確固たる存在を印象づけようとしている。

 ゴダール自らが撮影した飛行機雲の軌跡から始まる『パッション』は、絵画をモチーフにして、光にこだわり続ける映画監督が主人公である。ハリウッドへのアンチテーゼ、労働者の闘争など、いかにもゴダールらしいテーマが、印象的な映像とともに随所に見え隠れしている。
『パッション』
 また欧米でセンセーションを巻き起こした『ゴダールのマリア』は、ミエヴィル監督による短篇『マリアの本』とゴダール監督による長篇『こんにちは、マリア』を繋ぎ合わせたひとつの作品。とくに聖母マリアの処女懐胎とキリストの誕生を主題とした『こんにちは、マリア』は、 パリ封切り時には、キリスト教の信仰への冒涜だとしてカトリック系団体の大規模な抗議運動が起きた問題作だ。

 この夏、甦るゴダールの鮮やかな映像と流れを引き裂かれた音楽の断片の中で、情熱と受難を同時に体験してみよう。
『ゴダールのマリア』


■『パッション』シネ・アミューズ 2002年7月27日(土)公開  配給:ザジフィルムズ

 そこは、スイスらしき村のスタジオ。ポーランド人監督ジェルジー(イエジー・ラジヴィウォヴィチ)は、「パッション」という美術映画をビデオ撮影中。レンブラントの「夜警」をはじめ、ゴヤの「裸のマハ」アングルの「少浴女」といった古典的名画を映像として再現する試みなのだ。しかし彼が満足する「光」が発見できないまま撮影は停滞し、製作中止の危機が迫っていた。ジェルジーは「陰」と「陽」になぞらえて、不当に解雇された労働者として工場長に抗議するイザベル(イザベル・ユペール)と撮影隊が泊まるホテルの女主人ハンナ(ハンナ・シグラ)の間で揺れている。はたして、ジェルジーは光を発見し、映画を完成できるのか。
☆1982年カンヌ国際映画祭フランス映画高等技術委員会グランプリ
原題:『PASSION』
監督:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ラウル・クタール/録音:フランソワ・ミュジー
編集:ジャン=リュック・ゴダール
写真/監修:アンヌ=マリー・ミエヴィル
出演:イザベル・ユペール、ハンナ・シグラ、ミシェル・ピコリ、イエジー・ラジヴィウォヴィチ
1982年/スイス=フランス/88分/イーストマンカラー/スタンダード /日本語字幕


■『ゴダールのマリア』シネアミューズ 2002年8月下旬公開  配給:ザジフィルムズ

□『マリアの本』
 ボードレールの詩を愛読する11歳のマリー(レベッカ・ハンプトン)は、倦怠期に入り不仲の両親がいる。喧嘩がたえない両親は別居することになり、マリーは週末だけ父親のもとを訪れる。父親と別れる時、こんど来る時には、置き忘れたマーラーのレコードを持ってきて欲しいと頼まれたマリー。彼女は家に帰り、その曲を聴きながら、感情を吐露するように部屋を駆け巡って踊る・・・。
☆1986年セザール賞最優秀短篇賞候補
原題:『Le Livre de Marie 』
監督:アンヌ=マリー・ミエヴィル
撮影: ジャン=ベルナール・ムヌー、ジャック・フィルマン、 カロリーヌ・シャンプティエ、イヴァン・ニクラス
録音:フランソワ・ミュジー
出演: ブリュノ・クレメール、オロール・クレマン、レベッカ・ハンプトン
1984年/フランス=スイス/28分/カラー/スタンダード/日本語字幕

□『こんにちは、マリア』

 カフェで、高等中学の学生ジュリエット(ジュリエット・ビノシュ )がタクシー運転手のジョゼフ(ティエリー・ロード)に結婚を迫っている。だが彼が恋しているのは、バスケット部に所属しているマリー(ミリアム・ルーセル)。彼にキスすらも許さないマリーは、ある日ガブリエルという男に、身ごもっていることを告げられる。処女であるマリー本人にとって、妊娠はまったく身に覚えのないこと。だが彼女は自分が妊娠していることを確信する。ジョゼフもまたマリーへの愛から処女懐胎を信じ、ふたりは結婚し子供が生まれる…。
☆1985年ベルリン映画祭インターフィルム賞・OCIC功績賞
原題:『Je vous salue, Marie』
監督:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ジャン=ベルナール・ムヌー、ジャック・フィルマン
録音:フランソワ・ミュジー
出演: ミリエム・ルーセル、ティエリー・ロード、 ジュリエット・ビノシュ
1984年/フランス=スイス/80分/カラー/スタンダード/日本語字幕


■永遠のパートナー、ゴダールとミエヴィルについて

☆ジャン=リュック・ゴダール Jean-Luc GODARD (監督)

 1930年12月3日パリ生まれ。父はスイスの開業医、母はパリの銀行家の娘。少年時代をスイスのニヨンで過ごし、パリのリセ・ビュフォンを卒業後、47年にパリ大学に入学。2年で中退後、配達係、カメラマン、TVの編集補、大衆誌のゴシップ工作員などをしながら、シネマテークに通う。50年にバザン、トリュフォー、リヴェット、ロメールらと共にシネクラブを設立。同人誌を刊行し映画批評を発表。52年より《カイエ・デュ・シネマ》で映画批評を続ける。

 54年の短編『コンクリート作戦』が監督デビュー作。59年に『勝手にしやがれ』が60年に公開されるやヌーヴェル・ヴァーグの代名詞的存在となる。68年《5月革命》以後は更に実験色の強い作品に取組み、ジャン=ピエール・ゴランらと結成した《ジガ・ヴェルトフ集団》で過激な政治作品を制作。
 74年アンヌ=マリー・ミエヴィルと工房《Sonimage》(後にPeripheriaに変更)を設立。80年『勝手に逃げろ/人生』で商業映画界に復帰し、セザール賞の作品賞や監督賞にノミネート。『カルメンという名の女』('82)ではヴェネツィア映画祭のグランプリに輝く。その後再びビデオ作品に没頭し、映像をコラージュした連作『映画史』を制作『フォー・エヴァー・モーツァルト』('97)といった音楽をモチーフにしたアート的な作品を次々と発表し、精力的に活動を続けている。
☆アンヌ=マリー・ミエヴィル Anne-Marie MIEVILLE (監督、脚本、スチル)

 1945年スイス、ローザンヌ生まれ。73年来、ゴダールの作品にスタッフとして参加するようになり、『パッション』ではスチル写真を担当。短篇の監督も単独で手掛けるようになる。

 88年には長編第1作『私の愛するテーマ』を発表。94年製作の第2作『ルーはノンとは言わなかった』が話題となる。97年はゴダール出演の『わたしたちはまだここにいる』を監督。またミエヴィルとゴダール主演による『そして愛に至る』(00)では、「パートナーシップ」を主題とし、ふたりの実生活を投影したかのような作品を制作。ゴーダールの泣く姿が話題となった。
■“甦る!情熱のゴダール”の素敵なポストカードを2枚1組で3名様にプレゼント。詳しくはこちらへ(終了しました)> http://www.eigafan.com/present/index.html
■『パッション』『ゴダールのマリア』オフィシャルサイトはこちらへ> http://www.zaziefilms.com/godard/


<<戻る


東宝東和株式会社