【FILE37】「フェリーニ・ナイト」
 音楽家coba氏と大沢伸一氏がフェリーニを語る!

 巨匠フェデリコ・フェリーニの命日にあたる10月31日、そして「フェリーニ映画祭」のオープニング前夜、シアター・イメージフォーラムにて「フェリーニ・ナイト」と題されるイベントが開催されました。ミュージシャンとして、またプロデューサーとして世界的に活躍する大沢伸一氏Xcoba氏によるトークショーの後、フェリーニの短編『悪魔の首飾り』を上映。この魅力的な一夜のトークショーをレポートします。


■フェリーニを体験すること

coba: どこで観たか覚えてないんですよ。初めて観たのは多分『道』だと思うんですが。僕の場合、音楽から入っていった感じです。フェリーニ映画で音楽を作曲したニーノ・ロータ氏は、映画監督によって大胆に作風を変えるんですよ。一般的にロータの代表作とされるゴッドファーザーやロミオとジュリエットがフェリーニとの作品ではないことを見ても、彼らのコラボレーションが特殊な意味をもっていたことがうかがえます。フェリーニとロータのコラボレーション時に起こる魔法は、僕のそれまで持っていた映画音楽という概念を完全に覆してしまいました。
音楽から入っていったと語るcoba氏
 そんな訳で、ロータの持つある部分をこんなにも露出し、偉大な仕事をさせてしまう強力なフェリーニというキャラクターに、本当に興味があります。
大沢伸一: フェリーニは、多分文部省かどこかの推薦で学校で観たんだと思います。日本にはほんとうにフェリーニの信者が多いですね。僕は信者というほどすべての作品を観ているわけじゃないのですが、特に初期の作品にはまってます。『道』は何度も観ていますね。昔の映画だから、そんなに複雑でイヤなところには行かないであろうというヘンな思い込みが最初にあって、でも観ていると主人公が酷い目にあったりする。いって欲しくない方向にばかりに話がいってしまう。それが僕にとっても自分の経験ともあいまって、これって人生の縮図を見せられているんだなと感じる。
人生の縮図を見せられると大沢伸一氏
 初期のどの作品を観ても、それが感じられるんですね。そういうのが痛くて、つらいんですが、観て良かったなと最後にはすごく思う。そういったことが一番フェリーニに影響されている部分ですね。


■フェリーニの魅力とは?

coba: フェリーニの魅力は、屈折感です。アイロニーと屈折の魔術。なんで日本人にこんなに刺さるのかと、考えたことがあるんです。共に第二時世界大戦に敗れた日本とイタリア。決定的な違いはイタリアが自身の文化を保ち続けたのに対し、日本はそこすらも放棄してしまった感がある。しかし欧米文化を吸収する過程で、我々日本人は独特の屈折感を取得する。欧米文化への密かな反逆心から生まれた、戦後の日本独特の感性とでもいいましょうか。

 そういう屈折を解する我々だからフェリーニのあの妙な屈折感がたまらないんです。イタリア人にはそれを理解する力が薄いんじゃないかなと思うんですが・・・。多分間違ってると思います。(笑)
大沢伸一: 『甘い生活』といっても苦い部分が描かれていますよね。今回改めていろいろな作品を見直してみたんですが、いろいろなタイプの作品があるなか、すごいつらい作品が多いですけど、総じて前向きにはなりますね。きちんと人生生きて行こうって気にはなるかもしれないですね。

coba: 僕は、誤解を恐れずにいうならば、フェリーニのやりたいことが凄く理解って、抱きしめたいって思っちゃう。この人の魔法にかかったな、って。映画のシーンが夢に昇華していくような凄みと、とぼけているようでほんとに鋭い刃物のような感性で、「な~んちゃって」というのを作る感じ。ブツの大きさの違いに感動します。


■一番好きなシーンは?

大沢伸一: ころころ変わるんですが、パーティ・シーンは全部好きです。エキセントリックの連続でしょう。その当時のイタリアにはなかったものをとにかく全部見せたい、みたいな。アフリカンなダンス・シーンやへんてこりんなマンボなんか。パーティ・シーンのディテールが好きですね。でも一番好きなのは、『道』の一番最後の海辺のシーンかな。

coba: 僕はね、サラギーナ。『8 1/2』の浜辺で「サラギーナ、出ておいでよ」っていって、音楽が流れてサラギーナが踊りだす。もう涙が出てくるんだ、あの曲。あとはサーカスのシーンですね。
フェリーニについての思いを語る両氏


■大沢伸一PROFILE
91年に結成されたバンドMondo Grossoのリーダーとして日本のアシッド・ジャズ・シーンで活動をはじめ、93年にアルバムデビュー。欧米でも高い評価を得る。96年にオリジナル・メンバーが脱退した後は、様々なアーティストを起用したユニットととして世界ベースの活動を行っている。またUA、CHARA、ジャミロクワイ、ドラゴン・アッシュ、中島美嘉らの作品を手がけ、プロデューサーとしての手腕を発揮する。
■公式サイト> http://www.realeyes.org/


■coba PROFILE
アコーディオンのイメージを大きく塗り替え、世界に衝撃と影響を与えたcoba。そのサウンドに魅せられたビョークからの誘いで、ワールドツアーに参加。95~97年にかけて世界60ヶ国以上で公演を行う。また今年で15年目を迎えた自身のヨーロッパツアーも恒例化し、好評を博している。サウンドプロデューサーとしての活躍も幅広く、映画・舞台・TV・CM音楽やアーティストのプロデュース等、その情熱的なサウンドを耳にしない日はない。

■公式サイト> http://www.toshiba-emi.co.jp/coba/
■フェデリコ・フェリーニ映画祭公式サイト> http://www.zaziefilms.com/fellini/


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