【FILE 41】アフガニスタン発『午後の五時』
 6月下旬より銀座テアトルシネマにて公開

イラク情勢に世界中の目が注がれているが、アフガニスタンは未だ復興の途上にある。タリバン政権崩壊後、虐げられてきた女性たちは今、何を見つめているのか? 『ブラックボード 背負う人』(00)でカンヌ映画祭・審査員賞を受賞した22歳のイラン人女性監督がとらえた、アフガン女性の物語。
■STORY
タリバン政権崩壊後のアフガニスタン。信仰心が厚い年老いた父と、出稼ぎにでた夫の帰りを待つ兄嫁のレイノマ、彼女の赤ん坊と暮らすノクレは「女性が勉強するのは神への冒涜」と説く父に内緒で、普通学校に通っている。そんな彼女の夢は、アフガニスタンの大統領になって、戦争をなくすこと。ある日、パキスタンからの帰還民の青年と知り合ったノクレは、彼とともに大統領の演説の研究をはじめるが、帰還民が彼女の家へ大勢押し寄せたことから、一家は家を追われてしまう。


■ブルカに秘めた自由への憧れ
ブルカを被らず、顔をさらした女性を見た男性が目を閉じてつぶやく。
……どうか、女性を見た私の罪をお許しください。

タリバン政権時代、女性は秘すべき存在として学ぶことや外出を禁じられてきた。2001年9月11日に政権は崩壊したが、果たして私たちはその後のアフガニスタンの女性たちのことを、どれくらい知っているだろうか?
『午後の五時』は、そんな私たちの疑問に応えてくれる映画だ。タリバン政権崩壊後のアフガニスタンでは、女性にも学校が開放され、新しい風が吹き出した。当時22歳の監督サミラ・マフバルバフは「今のアフガン女性たちのことを世界に伝えたい」と、これまで映画を観たこともない同じ22歳のアフガン女性を主人公に起用し、この地に住む人々の日常生活を切り取ってみせる。
アフガニスタン初の女性大統領になろうと夢見るノクレは、未来に希望を抱いている女性だ。同級生の前で戦争の無意味さや女性の自立を説くなど、新しい時代の風をとらえ前向きに生きようとする。しかし、彼女の前には様々な問題が待ち受けている。住む家を追われたり、生活に必要な最低限の水を探しもとめたり、大切な人の死にも遭遇する。ノクレの日常生活は、常に死と隣り合わせであり、まだ戦争が完全に終わっていないことを実感させられるだろう。
「この作品の目的は、この地域の後進性の謎と、2つの世代間の隠れた戦い、また男性と女性の人生の違いを人々に見せ、理解すること」と監督のサミラが語るように、ノクレの夢が大きければ大きいほど、現実とのギャップは強烈なコントラストを放っていく。

メディアでアフガニスタンのニュースが取り上げられることは極端に少なくなってきたが、まだまだ復興にはほど遠い。「俺達は一体どこへ行けばいいんだ?」と、最後に問いかける老人の言葉が胸に残る。この地に住む人々の真の暮らしを垣間見れる貴重な映画だ。


■世界的に有名なマフバルバフ一家
本作の監督、サミラ・マフバルバフは、18歳のときに撮った『りんご』('98)でデビューし、『ブラックボード 背負う人』(00)ではカンヌ国際映画祭の審査員賞に史上最年少で受賞する。『カンダハール』(01)で知られるイランの巨匠モフセン・マフマルバフを父に持つサミラの家は、有名な映画一家としても知られ、長男メイサムは本作のプロデューサーとして参加。また、末娘ハナも『ハナのアフガンノート』(03)で映画デビューを飾り、2003年ベネチア国際映画祭の批評家週間に公式出品された。これにより姉、サミラの記録を塗り替え、史上最年少14歳の出品者となった。


■DATA
第56回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作。
原題:At Five in the Afternoon/2003年/イラン=フランス/105分
スタッフ
監督:サミラ・マフマルバフ
脚本:サミラ・マフマルバフ、モフセン・マフマルバフ
撮影:エブラヒム・ガフーリ
スティル、プロデューサー、プログラマー:
メイサム・マフマルバフ
キャスト
ノクレ:アゲレ・ノザイ
父親:アブドルガニ・ヨセフラジー
レイノマ:マルズィエ・アミリ
詩人:ラジ・モヘビ




■『午後の五時』の舞台裏を描いたドキュメンタリー 『ハナのアフガンノート』
若干13歳のサミラの妹ハナが、『午後の五時』のキャスティングの過程を克明に追ったドキュメンタリー。一般人をスカウトするサミラ一行。映画に出演すると言っておきながら、「そんなことは言っていない」とシラをきる導師や、ノクレを演じたアゲレの出演に至るまでの紆余曲折、強引なほど熱心に説得をするサミラなど、映画にまつわる様々な人間模様が描かれる。真剣になるほど可笑しさも感じさせる登場人物たちと、そのウラにあるリアルな社会背景を映し出したハナの手腕はお見事!

撮影・監督:ハナ・マフマルバフ
5月 銀座テアトルシネマにて公開


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