【FILE42】北欧発『キッチン・ストーリー』
 5月22日よりBunkamuraル・シネマにて公開

スピード化や効率化が重視されてきた現在、毎日をゆっくりゆったりと過ごす「スローライフ」が注目を集めている。今回は、そんな「スローライフ」の本場、ノルウェーとスウェーデンから、人生を豊かに過ごす秘訣が詰まった映画をご紹介しよう。
■ストーリー
 1950年代初頭、馬がもらえるという理由から「独身男性の台所での行動パターン」の調査に応募したイザック(ヨアキム・カルメイヤー)。しかし彼がもらったのは、スウェーデン特産の赤い馬の人形だった。応募したことを後悔したイザックは、やってきた調査員の中年男、フォルケ(トーマス・ノールストローム)に対してなかなか気を許せない。会話や交流を禁じられている2人の気まずい生活が続くが、初めて口を聞いた日を境に、2人は次第に交流することが楽しみになっていく。
■公式サイト> http://www.kitchenstory.jp/


■奇妙な共同生活で学んだ人生の楽しみ
 この映画の舞台となっている1950年代の北欧といえば、第二次世界大戦が終わり、未来へ発展すべく人々の関心が高まっていた時代。そんな中、スウェーデンでは製品開発に役立てようと、「独身男性の行動パターン」の調査が開始されるのだが、これがなんともユニークなのだ。まずは想像してほしい。
 ある日あなたのもとに調査員がやってくる。調査員はあなたの家のキッチンに監視台を設置し、そこからあなたを観察している。ふとコーヒーが飲みたいと思ったあなたは、コーヒーを沸かしに台所へ(調査員はテーブルから台所への動線1本を用紙に記入)。カップをとりに食器棚へ行き(食器棚まで1本)、コーヒーを入れて(台所まで1本)、席に戻る(テーブルまで1本)。おまけに調査中は、「お互い会話してはならない」「いかなる交流ももってはならない」という厳しいルールもある。……こんなことを1日中、毎日観察されたら、一体どうなるのか?
 当然、報酬の馬ももらえなかった主人公のイザックは、フォルケのことが気になって仕方がなく、あの手この手で何とか調査をかわそうと奮闘をはじめる。寝室でこっそりと料理をしたり、2階に穴を開けフォルケを観察したり……。セリフはほとんどないながらも、狭い空間で巻き起こす2人の行動は、とても奇妙で微笑ましい。
 監督のベント・ハーメルは、北欧のアキ・カウリスマキとも呼ばれている人物で、『キッチン・ストーリー』の主人公も、カウリスマキ作品同様、無表情で口数も少ない。しかし、機能性や会社の規則に縛られるフォルケが、会話をきっかけにイザックのシンプルな生活ペースにあわせたとき、彼らの奇妙な共同生活は少しずつ変化していく。

 心を通わせる会話や、ともにとる食事、ときにはお国柄を巡っての議論など、その素朴な日常はなんと贅沢に映ることか。イザックの「会話しないと、何もわからないよ」というセリフをはじめ、この映画には人生を豊かに過ごす秘訣がたくさん詰まっている。


■ノルウェーとスウェーデンの違いとは?
 イザックの住むノルウェーと、フォルケの国スウェーデン。お互い隣国なれど、そこにはライバル意識が存在するようで、イザックとフォルケの関係を表わす隠れたテーマともいえる。
 自動車産業や、豊富な森林資源を生かした製紙や林業が盛んなスウェーデンは、北欧の大国を自認。そんなスウェーデンに対し、主な産業が漁業に限られたノルウェーでは、少なからずコンプレックスを持っていたという。映画の中にも、上から観察するフォルケがその構図を象徴し、「スウェーデンは観察するのが得意」とイザックがチクリと返す場面も。しかし、その後ノルウェーで巨大油田が発見されたことから、コンプレックスもなくなり二国間の違いはジョークとしてとらえられているそうだ。

(C) 2003 BULBUL FILM AS


■DATA
原題:Salmer fra kjkkenet/英題:Kitchen Stories
2003年/ノルウェー+スウェーデン合作/95分
スタッフ
監督/脚本:ベント・ハーメル
共同脚本:ヨルゲン・ベリマルク
撮影:フィリップ・オガールド
音楽:ハンス・マティーセン
キャスト
ヨアキム・カルメイヤー
トーマス・ノールストローム
レイネ・ブリノルフソン
ビョルン・フロベリー

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