【FILE46】韓国発『春夏秋冬そして春』
 10月30日より渋谷Bunkamuraル・シネマにてロードショー

ペ・ヨンジュンをはじめ、イ・ビョンホン、チャン・ドンゴンら華やかなスターたちの登場で盛り上がりも最高潮な“韓流ブーム”。今回はそんな注目の国、韓国から四季折々の美しさをとらえた一本の映画をご紹介します。

■STORY

 老僧(オ・ヨンス)と幼子が暮らす、山間の奥深くの湖に浮かぶ小さな寺。春の穏やかな日々の中、幼子はある日、蛙や蛇にちょっとした悪戯を仕掛け無邪気に喜んでいる。次の日、その悪戯は思いもよらぬ形で幼子に帰ってくる。夏--。少年へと成長した幼子は、病の治療に訪れた少女に恋をする……。
 水上の寺を舞台に、一人の幼子の波乱にとんだ人生が、四季折々の映像とともに綴られるキム・ギドクの“癒し”と“再生”の物語。
■公式サイト> http://www.kimki-duk.jp/spring/mainframe.html


■キム・ギドク監督が極めた“東洋の美”と“救い”
 本作品の監督キム・ギドクといえば、桟橋で暮らす娼婦と流れ者の激しい愛を描いた『魚と寝る女』(00)や、暴力的な手段で愛する女を手に入れる『悪い男』(01)など、人間の残酷性や痛み、悲しみ、純粋さなどを独特のスタイリッシュな映像美で描き、その過激な内容が物議をかもすと同時に、ヴェネチア国際映画祭やベルリン国際映画祭など、海外で高い評価を受けている人物である。そんな彼が、これまでの作風から一変し、静謐な映像でゆるやかな時の流れを綴ったのが、この『春夏秋冬そして春』だ。
 澄み切った湖に浮かぶ小さな寺。まるで水墨画のようなその湖のほとりにある門が開かれたとき、一人の男の物語が幕を開ける。春夏秋冬の四季のうつろいとともに、幼子は少年から青年へ、そして人生を達観する壮年へと成長していく。各季節には人の業や、欲望、怒り、安らぎなど、人生を過ごす上でのいくつかの感情が象徴的に描かれているのだが、これまで人間のむき出しの感情を映し出してきたキム・ギドク監督にしては実にさりげなく、「生きていたら、こんなこともあるんだよ」とそれらの感情を見せてくれる。
 「今回は、自分が辛くならない映画を作りたかった」と語る監督。「冬」の章では自ら壮年役として出演もしており、師であった老僧が去った庵に一人戻り、修行に励む男を黙々と演じている。“一切の形成されたものは無常である”という諸行無常などの仏教の理念のもと、様々な経験を経て再生へと向かう男を、東洋美溢れる映像で静かに映し出した本作は、キム・ギドク監督がはじめて挑んだ“癒しの映画”である。やがて季節は巡り再び春が訪れる。何が起こっても人生は続いていく。そんなシンプルな生活に感じ入るもよし、息を呑むほどの荘厳な自然の景色に心を奪われるもまたよし。葉が色づき始め季節感が漂う今の時期に、韓国の侘び・寂の世界に思いをはせてみてはいかがだろうか。


■映画から観る韓国
■韓国といえば儒教の精神が浸透している国として知られているが、本作で描かれている仏教が占める割合は全体の4分の1、ちなみにキリスト教徒も4分の1である。

■湖に浮かぶ印象的な庵は、釜山から北へ上ったところにある周王山国立公園のなかで撮影された。これまで一般にあまり知られていなかった注山地は、今では観光スポットになっているという。ただし、この寺はセットのため、残念ながら今では跡形もないそうだ。
■「冬」の章で韓国の国民的な歌アリランが印象的に使われているが、実はこのアリラン、何種類もあるそうだ。一般的に広く知られている「アリラン、アリラン、アリラヨ~」というフレーズのものは、“本調アリラン”と呼ばれているもので、本作で歌われているのは、“旌善アリラン”というもの。長い歌詞がお経を連想させ、この作品のイメージにもぴったりである。


■DATA

2003年青龍賞最優秀作品賞受賞
2004年大鐘賞最優秀作品賞受賞ほか

原題:SPRING, SUMMER, FALL, WINTER... AND SPRING
2003年/ドイツ+韓国/102分
配給:エスピーオー

監督・脚本・編集・出演:キム・ギドク
撮影:ペク・ドンヒョン
音楽:パク・ジウン  
出演:オ・ヨンス/キム・ジョンホ/ソ・ジェギョン/キム・ヨンミン


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