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「断絶」

今は鬱陶しさもある梅雨ですが、もうすぐ待ちに待った夏がやって来ます。そんな夏前の鬱陶しさを吹き飛ばすような、自由で過激な反体制の内容を持つニューシネマの逸品を紹介します。

70年代のアメリカ映画ベスト10に必ず選ばれる作品が、1971年の「断絶」である。「イージー・ライダー」、「真夜中のカウボーイ」などを代表作とする、低予算で作り上げた自由で過激な反体制な内容のアメリカ映画すなわちアメリカン・ニューシネマの系列に連なる作品としても知られながら、日本では地味に公開され90年代に一度リバイバル上映はあったがビデオも出ず、今回の今年4月のDVD化が初のリリースとなる。筆者は日本版「エスクァイア」に掲載された全文シナリオを読んで興味を持ち、アテネ・フランセで上映されたときに観たのが初見であったが、その鮮烈さが今もとても印象に残っている傑作だ。




断絶通常盤



 ストーリーは大陸横断の賭けレースの模様を描くが、同じくニューシネマで大陸横断の賭けレースを描く「バニシング・ポイント」が熱さを内包しているのとは対照的に気怠さが全体に漂っている。登場人物は4人と少なく、名前でなく「ザ・ドライバー」、「ザ・メカニック」、「ザ・ガール」、「GTO」と抽象的に呼ばれているのも特徴だ。名前がないことで、登場人物の虚無さがまるで「これらはどこにでもいる人物でもあるし、あなた自身かもしれない」とも思わせるのだ。俳優でないミュージシャンが主な役を演じていて、シンガー・ソングライターの代表だったジェームズ・テイラーが「ザ・ドライバー」、ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンが「ザ・メカニック」を演じる。演技でない佇まいがリアルさを強烈に醸し出して素晴らしい効果をあげている。ドライブインで知り合って同乗する「ザ・ガール」を演じるローリー・バードは、今作後に同じくモンテ・ヘルマン監督の「コックファイター」でウォーレン・オーツと再共演する。製作のゲイリー・カーツは同じく車が大事な要素で出てくるが今作とは違って郷愁的に60年代初頭を描いた「アメリカン・グラフィティ」製作し、その後にジョージ・ルーカスと再び組んで「スター・ウォーズ」を製作することになる。賭けレースの相手になるポンティアックGTOに乗った「GTO」をウォーレン・オーツが演じる。ウォーレン・オーツはサム・ペキンパー監督作品で知られる名優で、今作で唯一の若者ではない主な登場人物だが「俺は以前は宇宙飛行士だったんだ」との言葉を筆頭に、どこまでが本当か分からないことばかりをうそぶく謎の中年男性を好演している。



断絶 コレクターズ・エディション

 監督のモンテ・ヘルマンは、今作後は不遇ながらも今作で伝説の監督になりタランティーノのデビュー作「レザボア・ドッグス」の製作にも名前を連ねている。今回のDVDリリースはまさに快挙であり、この機会に是非見てほしい。なお、DVDには通常盤とコレクターズ・エディション盤があり、後者には劇場公開時の宣材レプリカやオリジナル・ブックレット「断絶BOOK」などを同梱している。

TEXT BY わたなべりんたろう

【著者プロフィール】
映画・音楽・ファションのライター。雑誌「Elle Japon」、「映画秘宝」、「TV Bros」、「ミュージック・マガジン」、「CDジャーナル」などで執筆中。
ここ数年の作品では「トゥモロー・ワールド」をこよなく愛す。

2007年07月13日 18:27

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