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「スパイラル・バイオレンス」

映画のライターという仕事をしていると、誰もが観に行くような超大作・話題作だけでなく、コアな映画ファンが飛びつくマニアックな作品まであらゆるジャンルの映画に触れる機会が多いのです。
なかには日本未公開のままスルーにになってしまう逸品もあり、筆者からはそんな悲しい運命を辿った映画に光を当てたいと思います。

今回ご紹介する日本未公開映画は、スペイン産のサイコホラー『スパイラル・バイオレンス』。




     ↑スパイラル・バイオレンス

原題は“BOSQUE DE SOMBRAS”ということで読めやしませんが、邦題が示すとおり暴力の連鎖を描いたものものしい映画です。
物語の舞台となるのは、スペインのとある田舎町。バカンスを楽しむために山荘にやってきた4人の男女(うち1組は壊れた関係を修復するため)が、ふとしたことから謎めいた村のタブーを冒してしまったことで、命を狙われるハメに。楽しいはずの休暇が一転して、血と暴力に彩られた恐怖のバカンスになるというストーリーです。

邦題のスパイラルよろしく、監禁・レイプ・殺人など過激なバイオレンスが連鎖していく構成。
暴力が新たな暴力を生み、疑心が人間を狂わしていく――その過程を描いていくことが、この映画の主たる目的だったらしい。“監禁・レイプ・殺人”などという強烈な活字のコピーが踊れば、どんだけエグい映像が並ぶんだと、期待しちゃう趣向の方もおられると思うが、じつはそれほどキツくはない。
前述のように“疑心が人間を狂わしていく”人間の内面の変化、人間本来が持っている暴力性・残虐性の覚醒を見せこむことに重点が置かれており、それを気弱な英国人ノーマンという人物が体現している。
主役はゲイリー・オールドマンだと思うのだが、彼は狂気の村に立ち向かっていく正義感の男を熱演しているので、ノーマンを際立たせる対照的な役となっているのです。

結果、人間本来がもっている暴力性・残虐性を映像上で上手く引き出すことができたのかどうかは知らないけれど、本作で注目すべき最大のポイントは、あのゲイリー・オールドマンが“いいひと”を演じている点。確かに最近では“ハリポタ”シリーズでのシリウス・ブラック役などで名脇役のポジションを獲得しているが、これまでは『レオン』の悪徳刑事をはじめ、どちらかといえばエキセントリックな悪役が多かった性格俳優。
だからどうだってオチですが、正義はエゴと裏腹、それを貫くオールドマンの微妙な演じ分けは見逃さないでください。

TEXT BY 鴇田崇

【著者プロフィール】
総合映画情報サイト「映画生活」の編集を経て、フリーのライター/エディター/WEBプロデューサーに。WEB…「Yahoo!映画」「シネマトゥデイ」「映画生活」、雑誌…「この映画がすごい!」、「Newtype」などで執筆中。映画の趣味はミーハーで特段の深い愛情もないが、『シベリア超特急』に象徴される、とりとめのない娯楽を好む。

2007年08月15日 20:04

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