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「プロポジション-血の誓約-」

 寒い冬に、オーストラリアの灼熱の大地を舞台にした異色の西部劇を紹介します。あえて季節とは正反対の内容を楽しむのも映画の醍醐味です。

 惜しくも日本未公開となってしまった傑作が「プロポジション-血の誓約-」だ。ミュージシャンで作家としても評価の高いニック・ケイブが原作を書いた西部劇だ。ニック・ケイブは伝説のバンドであるバースディ・パーティを経てソロ活動で高い評価を得たアーティストで、映画ファンなら「ベルリン/天使の詩」にライブシーンに出ていたと言えば分かるかもしれない。なお、西部劇はハリウッドでも最近になってまた作られ始めていて、ラッセル・クロウ&クリスチャン・ベール主演の「3:10 to Yuma」(エルモア・レナード原作の1957年の「決断の3時10分」のリメイク)も評価がとても高い。

ニック・ケイブがオーストラリア出身なのもあって、今作もオーストラリアが舞台の異色の西部劇になっている。出演者のガイ・ピアースとデヴィッド・ウェンハムもオーストラリア出身の俳優である(ガイ・ピアースはイギリス生まれだが、3歳の時にオーストラリアに移住)。監督のジョン・ヒルコートは日本では長編デビュー作の「亡霊の檻」(1988、原題「GHOSTS...OF THE CIVIL DEAD」)が公開されているだけだが、「亡霊の檻」で既にニック・ケイブを主演と音楽に迎えていた。なお、ジョン・ヒルコートもオーストラリア出身であるように、ニック・ケイブとは盟友なのである。コーエン兄弟の話題の新作「ノー・カントリー」と同じくコーマック・マッカーシー原作の「The Road」の映画化をガイ・ピアースで準備中の俊英である。「The Road」は「マッド・マックス2」のような近未来SFながらピューリッツアー賞を受賞した異色の長編である。


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プロポジション 血の誓約

 「プロポジション-血の誓約-」はサム・ペキンパー以降のような西部劇の終焉の雰囲気が濃厚に漂っているのが特徴である。ストーリーは、19世紀末のオーストラリアを舞台に、荒くれ者が移住者たちの社会を脅かし、血を血で洗う残酷な殺し合いが繰り広げられていた。そんなある日、悪名高きバーンズ兄弟の次男チャーリー(ガイ・ピアース)は警部から「死刑される弟を助けたくば、兄のアーサー(ダニー・ヒューストン)の首を引き渡せ」と持ちかけられ、兄か弟か選択を迫られた彼は、さまざまな葛藤が渦巻く中、兄が逃げた荒野へと旅立つ・・・となっている。「弟の命を救うには、兄の命を奪わなければならない」という贖罪が大きなテーマになっているうえに、歴史的にも大きな事件であるオーストラリアの先住民であるアボリジニの虐殺が描かれる。タイトルバックのモノクロ画像でもそれらの出来事が示唆的に描かれるが、とても重いテーマである。

オーストラリア映画協会の撮影賞を受賞したブノワ・ドゥロームの自然光を生かした撮影も素晴らしく、灼熱のオーストラリアの大地の残酷さと今作の内容の重さを見事に描き出している。ブノワ・ドゥロームはフランス出身の撮影監督で、「青いパパイヤの香り」 (1993)、「猫が行方不明」(1996)、「こわれゆく世界の中で」(2006)で知られる。

 特典の「撮影の舞台裏」では、本編では冒頭しか出演していなかったノア・テイラー(テイラーもオーストラリア出身の俳優)のインタビューが収録されていて「出演したのを誇りに思っている」旨を語っているが、その他の出演者も多くが脚本の素晴らしさに触れたうえで「これこそがオーストラリアの真実で、その本質を描いた作品だ」と語っているのが印象的だ。ペキンパーの映画のように残酷描写もあるが、これだけ鮮烈な映画は滅多にないので是非見てほしい。ラストのガイ・ピアース演じるチャーリー・バーンスのやるせなさが胸に迫ってくるだろう。

TEXT BY わたなべりんたろう

【著者プロフィール】
映画・音楽・ファションのライター。雑誌「Elle Japon」、「映画秘宝」、「TV Bros」、「ミュージック・マガジン」、「CDジャーナル」などで執筆中。
ここ数年の作品では「トゥモロー・ワールド」をこよなく愛す。

2007年11月27日 22:00

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