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興収目標


映画のヒット及び成功の目安になる数値として、興行収入(興収)があります。 むろん使用した経費(宣伝費・プリント費用など)にもよる訳ですが、この興収が10億円を超えれば基本的にはまあヒットした(=成功した)と言えると思います。 そして30から50億を超えれば大ヒット(実質的には50億を超えたら、というところでしょうね!)、100億を超えれば超大ヒットといったことになります。
私がこの業界に入った1990年代前半では、まだ日本における歴代ランキング(当時はまだ配収ランキングでした)のNo.1は『E.T.』<1983年公開・興収換算:約135億円>であり、これは現在よりも高かった1983年当時の入場料を考えると、もう抜くことはできないのでは? などとよく言われていたものです。ですが、90年代後半になって『もののけ姫』<1997年公開・興収193億円>によってその記録が大幅に破られ、続けて同年に『タイタニック』<興収260億円>が更にそれを上回る、とてつもない興収記録を樹立してからというものは、日本でもかなり高い頻度でコンスタントに興収100億円を超える映画が出てくるようになりました(ハリウッドでの映画大成功の目安も1億ドルを突破することと言われています)。『ハリー・ポッター』シリーズなどは現在までの3作がすべて100億円を突破しているというまさにドル箱シリーズですし、宮崎駿アニメも『千と千尋の神隠し』<2001年公開・興収303億円で現時点でダントツのNo.1記録>、『ハウルの動く城』<2004年公開・興収推定200億円>と、100億を簡単に超えてそれ以上の記録を達成しているのはみなさんもご存知のことと思います。
そんな訳で、今や現在の歴代興収入ランキングTOP10の中で、『E.T.』のみが唯一20年前に公開されたものになり、後はすべてこの8年間ぐらいの間に公開されたもので占められるということになりました。この背景には、まさに時期を同じくしたシネコンの全国各地での開館ラッシュがあります。日本でのスクリーン数が飛躍的に増加し、それに伴って映画人口も増加したということが、このランキングからも一目瞭然となっています。つまり、シネコンでどれだけ有利なブッキングをすることができるのか?ということが現在ではその映画の興収を左右することになっているのです。
そこで大事になるのが、映画会社が自分たちで設定する“興収目標”ということになります。仮に興収目標を100億としたのであれば、それはその映画に関して相当な期待をしていることになり、力も入れるという決意表明とも受け取れます。100億を達成するためには、興行サイドをうまく取り込んで相当な館数を確実にブッキングしなくてはならないからです。そして、同時にかなりの宣伝費をも投入して、それこそその映画のことを知らない人がいない、というぐらいまで徹底的に認知度をアップさせなくては無理です。しかし忘れてはいけないのは、どの映画でも100億を狙える訳ではないということです。それを狙えるのは当然、ごく一部の映画だけです(今年の夏興行でいえば『スター・ウォーズ エピソード3』は間違いなく狙えるというところでしょうが、『宇宙戦争』は何とも言えない微妙なところではないでしょうか)。
要するに、公開する映画の適正規模というかポテンシャルというものを、正しく見極める眼を持っていないと興収目標を見誤ることになり、結果大コケをしてしまったり、商機を逃したりと、自分たちで自分たちの首を絞めることになってしまいますので、各社そこは非常に難しいところだと思います。強力な映画が運良く続くこともありますが、概ね各社そのような興収目標で100億規模を狙える映画は、1~2年に1本ぐらいあれば良い方ですからね。まあ簡単に言えば、チャンスを見据えて、力の入れ所を間違えないことが重要になるので、正しい目標設定を各社しなくてはいけないということです。確かに興収100億という目標に対して、一方でその1/10の興収10億が目標であれば、簡単に達成できるのでは? と思われる方も恐らく多いと思われますが、当然宣伝費や館数規模なども比例するので、決して簡単ではなく、むしろ難しいのが現状です。
むろん、買い付け額は概ねかなり高額であり、そこを基点として更に収益を上げていくために、おのずと最低ラインでの興収目標というものが設定されてきます。これは、大きく稼ぐという意味での興収目標とは異なり、損をしないためのという意味合いが強いです。以前お話したとうり、興収だけで買い付け額を含めた必要経費をすべて回収できてしまえれば、ビデオ&DVDなどの2次以降の収益がまるまる上積みされることになるので、理想ではあります。しかし、それはあくまで理想であり、大半の映画は興行での損失分を、ビデオ&DVDなどの2次使用以降で補填していかなくてはいけないことが多いのです。
今年は我々には稼ぎ時の夏興行に映画がありませんが、その分、正月興行にブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー共演の話題大作『Mr.&Mrs.スミス』が控えています。『ターミネーター3』以来、久々に大ヒットを狙える、自信の持てる映画を公開することができるのは、我々にとっても誇らしいことです(そういう映画は我々のようなインディペントだと、本当にそうそうはないのです<泣>)。まだ半年ありますが、この夏興行の話題作では概ね、『Mr.&Mrs.スミス』の予告編が上映されることになるかと思いますので、みなさんも今からご期待下さい。

2006年04月07日 10:08

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