『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』~THE VISION FOR SENNA 1~
プロダクションノートをご紹介するこのコーナー、
今回も引き続き、全国大ヒット上映中『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』から。
ドキュメンタリーとしては画期的な、あるユニークな手法についてご紹介します。
■THE VISION FOR SENNA 1
このドキュメンタリーでユニークな点は、語り手がいないということだ。たくさんのインタビューがなされたが、それらは画面に映るのではなく、むしろ映像に被せたナレーションで流される。プロデューサーのエリック・フェルナーによれば、観客が被写体を目にするという点にカパディア監督が頑強に抵抗し、最後まで信念をまげなかったと言う。
「たいていのドキュメンタリーはそんなことはしないから、この映画はちょっとユニークな感じになったと思うよ。たしかに、画面外のナレーションは少し使わなくちゃならなかったけど、観客はその時代の場面から目を逸らされることはないし、アイルトン・セナをたっぷり見られる」とフェルナーは微笑む。「まるで最後までセナがストーリーを語ってくれているみたいだ、これはアシフの大した手柄だし、物語を推し進める大きな力になったと思うね」
カパディア監督によれば、「前もって、ぼくとパンデイで、YOU TUBEの映像から10分ぐらいの短編を編集してみて、それだけでもうこのアプローチはうまくいくと確信したんだ。もうすでにここには素晴らしい映画がある、非常に感動的なエンディングが――非常にショッキングで、心打つ、悲劇的なエンディングがもう撮られている。それに彼の人生の軌跡も、彼のライバルたちも、その幕開けから、中盤、フィナーレまでの映像がそろっているんだ。何のために語り手なんかが必要なんだ?」
他のドライバーたちのインタビューも――プロストはセナとのライバル関係にもかかわらず葬儀では棺の担ぎ手をつとめ、映画のために多くの時間を割いてくれた―F1のコメンテーターたちや、家族のインタビューも、慎重に選んだ記録映像に被せて流されている。
「ぼくたちがインタビューした人たちはみなひとり残らず素晴らしかったし、気持ちよく応じてくれたけど、映画で隅々まで輝いていなくちゃならないのは、セナの情熱と緊張感なんだ」とカパディアは続ける。「みんなに語り手なしでやると説得するのは簡単じゃなかった、なにせ、大抵のドキュメンタリー映画ではこれが幕開けになるわけだからね」と彼は笑った。「本当に、この映画に関わったなかには非常に経験豊富な人たちがたくさんいたから、説得するのは大変だったけど、僕にはずっと映像場面を活かしてやるべきだという直感があった。記録映像を見れば見るほど、これこそがストーリーだとわかってくるんだ」
鈴鹿でのF1日本グランプリ開催にあわせて、世界最速公開した本作。
ぜひ劇場で、セナの言葉に耳を傾けてみてください!
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国大ヒット上映中!
F1の総元締めであるバーニー・エクレストンは、本作が取り扱う期間内のF1ミーティングの映像を一つ残らず所有していた。最初の会談で、バーニーはにやりと笑って言った。「死ぬ気で頑張ってくれ、できるだけ応援するから」と。映画制作者がF1アーカイブを利用できるのは前代未聞だ。「エクレストンのおかげで、すべてを無制限に利用できた」とプロデューサーのフェルナー。こうして、すべての資料を丹念に調査するという気の遠くなる作業が始まった。「オリジナルの資料にまで遡るべきだというのが、僕たちの考えだった。そうして 何日も何日もそれらを見続け、できるかぎりの調査をして、何時間もかけて取捨選択した」とカパディア監督は言う。
命取りになるクラッシュにいたる週末の映像だ。「すごいのは、車庫にいる彼の姿が色々なアングルから撮られているので、まるでその場にいるようにカットを切り替えることが出来たことだ」とフェルナー。「ドキュメンタリーでこれだけの映像表現を見出すことはほとんどないよ。だって、観客はまるで劇映画を見ているような気になってくる、というのも、まさに事件が映画的な表現で展開していくからだ」ゲイ=リースも同意する。