TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『X-ファイル』裁判
 高視聴率のSFテレビ番組『X-ファイル』('93~)も、『Home Improvement』('91~'99)と同様の運命を辿った。ここでは、FBIエージェント・モルダーを演じるデビッド・ドゥカブニーが裁判の主演も演じた。
 『X-ファイル』は、ニュース・コープの傘下にある20世紀フォックスが制作し、世界中で放映されている人気番組だ。アメリカでは、ネットワークであるフォックスが放映した後、同じくニュース・コープの傘下にあるケーブル・テレビ局FXが、これを再放送する。ビデオ・ゲームはフォックス・インターアクティブで販売され、書籍はニュース・コープの子会社であるハーパーコリンズで出版され、CDはフォックス・ミュージックで、グッズはフォックス・ライセンシングで販売された。ひとつの番組から発生する二次使用が、すべて身内会社間で許諾されたことになる。
 20世紀フォックスを訴えたドゥカブニーによると、『X-ファイル』のテレビ・シリーズは、これまでに14億から15億ドルもの利益を20世紀フォックスにもたらし、1998年に公開された劇場用映画『X-ファイル ザ・ムービー』もヒット、全世界で1億8,500万ドルの興行収入を稼ぎだした。

 主人公を演じるドゥカブニーは、『X-ファイル』では必要不可欠な人材だ。そのドゥカブニーは、テレビ出演契約を更新する際、20世紀フォックスとの間で収益参加の契約を結んでいた。『X-ファイル』からの収入が増えればそれだけ彼の取り分も増えるわけだから、20世紀フォックスがいくらで番組を許諾するのか、彼にとって重大事だった。

 ところが、20世紀フォックスはそんなドゥカブニーの期待とは裏腹に、その関連会社に『X-ファイル』のテレビ放映権を市場価格よりも低い値段で売ってしまった。もし、きちんと市場調査をして、他のライバル会社とも使用料の交渉をしていれば、8億ドル高い値段で放映権を売ることができたとドゥカブニー側は主張する。

 ケーブル・テレビの放映権についても同様だった。20世紀フォックスは、その身内会社で立ち上げたばかりのケーブル・テレビであるFXに市場価格よりも安い値段で売ってしまったし、ハーパーコリンズに対しても不当に安い使用料で出版権を許諾したうえ、20世紀フォックスはエージェント料として30万2,463ドルをドゥカブニーに支払うべき使用料から差し引いていたといわれる。
 海外でテレビ放映権を売るときも同じように“お手盛り”(注:自分に都合良く決める)を行なった。20世紀フォックスは、BスカイB、スター・テレビといった身内会社に、市場価格よりも不当に低い使用料でテレビ放映権を与えた上、彼らが使用料を20世紀フォックスに対して支払わなかったときに何らの措置もとらなかったそうだ。

 ドゥカブニーが憤慨したのはこれだけではなかった。20世紀フォックスは、この身内取引に気づいた『X-ファイル』のプロデューサー、クリス・カーターに対して口止め料として400万ドルを支払い、更に彼が新しいテレビ番組を作るのでその制作費を提供する約束をしていた。20世紀フォックスは、カーターに支払った口止め料を『X-ファイル』の収入から経費として控除していた。何も知らないのはドゥカブニーだけであった。

 いっしょに仕事をしてきた人たちが共謀で自分を欺いていたと分れば、行き着くところは定番の裁判所だ。人気スターとはいえ、契約中である映画スタジオを訴えるということはやはり勇気がいるものだが、ドゥカブニーは敢えて20世紀フォックスを被告として訴訟を提起した。(1999年8月12日)

 映画やテレビ番組の制作・配給会社がコングロマリット化すると、身内会社間でその使用料を契約する場合、条件は不透明になりやすい。親会社は子会社を支援する意図で、市場価格よりも低い使用料で許諾されてしまうと、利益配分を受ける人たちの取り分は不公正に影響を受けることになりかねない。

 裁判の途中、ドゥカブニーは20世紀フォックスと和解した。和解内容は公開されていないが、20世紀フォックスはドゥカブニーに対して、3,000万ドルくらいの和解金を払ったといわれる。彼は2000年の『X-ファイル』シリーズの半分のみ主演。これを最後に番組を去り、彼の抜けた穴は新しい俳優が埋めた。
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