FILE18:『プロミス』B.Z.ゴールドバーグ監督&カルロス・ボラド監督インタビュー
 7月13日(土)BOX東中野ほか、全国ロードショー

 今回の世界の映画は、FILE15で取り上げた『プロミス』のB.Z.ゴールドバーグ監督とカルロス・ボラド監督のインタビューです。映画を作ることになったきっかけ、その後のエルサレムと子供たちの状況、映画製作のプロセスについてなど、質問すべてに丁寧に答えてくれた両監督。ふたりとも日本が大好きな様子で、リラックスした雰囲気のインタビューとなりました。


■子供たちとの出会いと交流。そして子供たち同士の交流について

B.Z.ゴールドバーグ監督(以下G):特にオーディションはやらなかったよ。とても小さな国なので、みんな僕たちが子供たちを探していることを知っていた。

カルロス・ボラド監督(以下B):人々に訊いたり、学校をあちらこちら訪ね歩いて子供たちを探したんだ。そして選ばれた子供たちにインタビューとカメラテストをした。8歳から12歳までのエルサレムに住む子供たちを対象にして、信仰心のある子、無神論者の子、男の子、女の子、キャンプに住む子など、さまざまな立場の子供を選んだんだ。
B.Z.ゴールドバーグ監督
 今でもほとんどの子供たちと、Eメールで連絡取り合ってるよ。イスラエル側の子供たちはみんなコンピュータを持ってるし、パレスチナの子供たちもアクセスできる。

 彼ら同士については、彼らの個人的感情で疎遠になったわけではないと思う。困難な状況が距離を生んだんだ。彼らはボーダーによって遮られ、真実の友情を育むことが出来ないんだ。お互いの場所を訪ねるのは、あまりにもリスクが大きすぎるというのが状況だ。
G:僕の意見は部分的に少し違う。大勢の人たちが「なぜ子供たちは、その後会おうとしなかったのか?」って訪ねる。でも彼らは時間を共有して一緒に遊んだだけで、真実の“友だち”ではなかった。共通する“スポーツ”そして“相手が敵である”ということが、数日間だけ彼らの距離をとても近くした。でもその後、彼らは自分達の生活へと戻っていったんだ。

 もちろん、もうひとつの見方として、彼ら自身のせいではなく、彼らの間にボーダーがあったからだともいえる。行き来することも難しい彼らのコミュニティと同様、子供たちも心底お互いを受け入れることはできない。

 サナベル(パレスチナ難民の少女)は、双子(イスラエルの兄弟)と良い関係を築いてるよ。彼らは話をしたり、Eメールでコミュニケーションを取り合っている。彼らは今週、CNNニュースにインタビューされることになってるんだ。そういう状況の彼らですら、お互いに会うことは出来ない。難民キャンプの人々の反対があるのでね。


■BZ監督のエルサレムでの子供時代

G:素晴らしかった。(笑)戦争で爆弾や銃撃戦があって、実にひどい状況だったけどね。僕にとってそれが当たり前のことだったんだ。子供は全体的な視点で物ごとをみれないからね。彼らの視点から、どんなことでも当たり前だと感じてるはずだ。でもティーンエージャーになると、サナベルなんかも「私はノーマルな子供時代をすごしていない」などという。酷い話ではあるけど、子供はどんな状況にも慣れるし適応できるんだ。山や森で遊んだあと、うちに帰って知り合いの誰かが死んだことをニュースで聞く。でもそれが僕にとっては、普通の日常だったんだ。

 当時は、パレスチナ人の友人はまったくいなかったね。知り合いもほとんどいなかった。でも、絶対にパレスチナ人の友人を作らないって考えたことは一度もないな。


■3人の監督の出会い。そして映画作りの過程で起こった様々な対立とは

G:当時、カーロスと僕のガールフレンド同士が姉妹だったんだ。もうひとりの監督ジャスティーンも、彼女たちの姉妹なんだ。とても親密な家族的プロダクションだね。(笑)
対立はすべてに置いてだよ。彼はとっても頑固なんだ。(笑)

B:頑固なのはこいつの方だよ。(笑)

G:ほとんどが、クリエイティブな部分でのぶつかりあいだね。意見の食い違いはいろいろとあった。とても悲惨なテーマだからね。
B:決して個人的感情ではない。各自が、テーマについて違う関連性を持っているし。

G:そしてそれぞれ違うアーティストとしての感性を持ってるからね。「これはすごいアイディアだ!」って思ったとしても、正しいとは限らない。単に良いアイディアにすぎなくて、現実的じゃない場合もあるよね。何が正しいのかわからないわけだから、みんなで自分のアイディアをぶつけあって、ほんとに素晴らしいものを引き出していくわけさ。

B:それぞれの3人の意見の違いを長い議論の中で、平和的に解決していく。このプロセスで、相手の話を聞くということを学ぶことが出来た。

G:でも2度と一緒にはやらないだろうな。僕はごめんだ。(笑)3人監督がいるなんて正気じゃないね。経験してみるのはいいけど、一度で充分だ。

B:3人ともそう思ってるよ。もう不可能だ。
カルロス・ボラド監督


■メキシコ出身のボラド監督が、なぜこの映画作りに参加したのかについて

B:僕自身、いまだに何故なんだって問い続けてるよ。(笑)でも誰でも人間として、戦争や、世界情勢について興味があると思う。僕はリベラルな家庭に育ち好奇心旺盛な子供だったから、4歳の頃から新聞を読みはじめ、世界情勢やカルチャー興味をもっていた。だから、中東について、いかに状況が知られていないか、誰が正しいのか、悪いのかそういうことを理解しようとしてきた。

 でも一番のきっかけは、ジャスティーンがこのプロジェクトに誘ってくれたことだ。もともとフィクションの長編を手掛けていた僕としては、キャリアの上でも最初は躊躇した。でも少しづつ参加していくうちに、個人的なコネクションや、3人のチームとしての一体感を持つようになっていったんだ。始めはハプニングとしてスタートしたこの仕事だけど、5~6年かかってこのプロジェクトに関わって、最後にはこの長い旅を何としてでも完成させたいっていう気持ちにまでなったんだ。


■制作中に一番感動したこと、苦労したこと。またBZ監督が出演を決断したのは?

B:苦労した点は、どうすれば、意味深いものになるのか、アウトプットの部分を考えることだった。順序よく内容をつなぎ合わせたり、キャラクターをコラージュしたり、描き方に苦労したかな。それと資金調達が大変だったね。

 感動したのは、人間について学ぶことが出来たことだ。それまで僕は、いろいろと問題のある人生を送っていたつもりだったけど、現地で撮影するにつれ、自分の問題なんてたいしたことじゃないと感じるようになっていたよ。
 子供たちは自分達で勉強しようと努力しているし、状況から抜け出そうとしている。タフな状況の中で、それでも笑ったり、楽しんでいる子供たちを見て、自分の大変さなんてなんでもないと感じるようになった。あまり文句もいわなくなったし、幸せを感じることが出来るようになったな。BZがいったことだけど、今まですべてのことを知っているつもりだったけど、中東にきて自分が何も知らなかったことを発見したって。
G:そうだね。自分自身の傲慢さを思い知った。どれだけ自分が知らなくて思い上がってたか、そして謙虚になることが出来た。感動したことはいっぱいあるけど、やっぱり子供たちについてだね。ファラジが電話してきたときはまったく予想していなかっただけに、とても感動したよ。
 映画出演は、ジャスティーンが絶対出ろっていったからだ。僕はノーっていったんだけどね。カーロスと僕は、このことについては同意見なんだけど、ジャスティーンは必ず彼女の意見を通す。(笑)だから僕は出演して、結果的に彼女は正しかったんだ。長い間、僕が出演するのとしないもの、各シーン2回づつ撮影してたんだ。僕の出演が、真実必要かどうかわかるまでね。実際僕の気持ちがほんとに変わったのは、完成後6ヶ月たってからだ。ああ、マジでうまくいったんだ!ってね。
兄弟のように仲が良い両監督
B:彼はほんとに嫌がってたんだよ。でもジャスティーンは、誰かが子供たちの掛け橋とならなければいけないっていったんだ。彼は俳優じゃないから、大勢の前でカメラの前に立つのが、居心地悪かったんだ。

G:え?なんだって?(とサングラスをかけてセレブ・ポーズ)いや、ほんというと、もしも演技をする俳優として登場するなら問題なかったんだ。ハイスクールでは演技の勉強をしたこともあるしね。でも、この映画の中で僕自身をさらけ出さなければならなかったことが、何よりも難しかったんだ。


■日本の印象について。そして日本の観客に観てもらいたいところは?

B:僕はいつも日本のカルチャーが好きだった。日本のテレビ番組で育ったしね。「コメットさん」や「鉄腕アトム」とか。(笑)相撲も好きだし、日本食も好きなので、日本にはいつか来たいと思ってたんだ。だから、印象は素晴らしい。日本に来て、とても魅力的なこの国をよく知ることが出来て、ほんとにハッピーだよ。

 日本の人々に観てもらいたいのは、中東問題は、ニュースと違ってほんとはもっと複雑だってことだ。これはCNNではない。もっと人間がかかわっている問題だ。人々の生活は笑ったり、泣いたり、苦しんだり、楽しんだりと複雑だ。様々な視点からもっと複雑な部分を観てもらいたい。
G:僕は日本がとても好きで、以前英語の教師として、1ヶ月は東京、5ヶ月は岐阜にいたことがあるんだ。今回戻ってくることが出来て、とてもうれしい。前に日本にいた間、みんなにとても歓迎してもらえて、日本の生活についてたくさん学んだ。それまで、自分はいつでもマジョリティーだったけど、マイノリティーであることを経験出来た。それまで知っていたカルチャーやアート、コミュニケーションは、単なる僕の思想であるにすぎなくて、完璧な真実じゃないことを、異文化を経験することで身をもって理解したかったんだ。今回、日本の人々に、映画を通して僕らの文化や生活について知ってもらうことが出来て、とても光栄に思う。

 映画については、フィルムメーカーにどこを観てもらいたいかきくのはとても難しいことだ。僕らは、映画を最初から最後まで全体として観てもらいたいからね。


■日本がパレスチナ・イスラエル問題で果せる役割、また個人で出来ることは?

G:みんなそれを訊くけど、よくわからないんだ。でも最も重要かつ最初のステップとして、まず「認識/awareness」が必要だね。実際何がおこってるかを、理解すること。TVのニュースや新聞に頼らずに、自分で深く真実を理解することだ。

 パレスチナ人がテロリストで、イスラエル人がソルジャーだとかっていう、安直な見解をなくすことが必要だと思う。そこには、何とか生き延びようとする人々の姿が浮かび上がってくるはずだ。彼らは、普通の健康的な生活を保つために、自分達のやれるべき方法をとっているだけなんだ。彼らは悪い人間なのではない。出来ることをやってるだけなんだ。本当に悪い人間なんて極、僅かだ。

B:文化の違いやお互いを理解することが、解決するのに役立つと思う。

 両監督は、ふたりとも少年の部分を残したまま大人になったという印象がある。『プロミス』の魅力は、政治的な中東問題を、両監督が子供たちと同じ視点で作り上げたことにあるのだろう。すでに公開前から話題となっているこの映画。ニュースでは決して見えてこない中東紛争を知るためにぜひ観てみよう!
■『プロミス』についての詳しい情報はこちらへ> 20020424.html


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