『遥かなるクルディスタン』イエスィム・ウスタオウル監督インタビュー

 大きな民族問題を抱える国トルコを舞台に、差別と偏見と弾圧に苦しみながらも、自由と民族の誇りを希求する若者たちの姿を描くロード・ムービーが登場。今回は、『遥かなるクルディスタン』のイエスィム・ウスタオウル監督、単独インタビューの模様をお届けします!


■まず、監督の経歴について。映画は独学ということですが、具体的にはどうやって学ばれましたか?また映画の道に進もうと思ったきっかけは?
 もともと本が好きだったので、小説だけではなく、あらゆる本を読むことによって、自分自身を向上させることが出来ました。また映画の理論や技術も、自分で本を読んで身に付けました。そして写真を撮ることを知っていたので、その中で、自然光の中でどうやったら自分の描くイメージを撮影できるのか、自分のタッチをどう映像に表現するかということを、徐々に身に付けていきました。

 書くということもとても好きで、自分を表現するのにはとても大切です。自分の言葉をどう映画の台本に反映させるか、その方法を考えながら書いてきました。
 映画を作る上で一番重要なのは、知識として実際の生活の中で人を知るということだと思います。深いところで人を知るということが、どうしても映画を作る上で不可欠です。ある役柄を作って、さらに役者に登場人物について説明し、理解してもらわなければいけないので、役者さん自身を知ってあげなければいけないし、その役者さんにアプローチをして、そのイメージを作らせていくというのも大事なことだと思います。
 これが私の映画の作り方です。人それぞれ方法が違うのでしょうけど、こういったやり方は結局誰にも教えられて覚えていくものではなく、人に対して説明をしてどう映画を作っていけばいいのかというのは、自分自身でしか学ぶことが出来ないと思います。

 長い間学ぶ期間がありあましたが、大きなステップとなったのは、短編映画を作ったときだと思います。これは映画でイメージを表現するということと、監督として登場人物の役柄を人にアプローチをして作っていくということをあわせて、ひとつの映画を完成させました。このことは、大きな前進だったと思います。


■建築を専攻されて、その後ジャーナリズムにはいられたそうですが、どういうきっかけでしたか。また建築の勉強が映画に役立っていることは?
ジャーナリストについてですが、私が書いた記事というのは映画についてです。当時私の友人がオルタナティヴ系の映画を作っていて、その映画について世の中に声を発していく必要があると思ったので、映画雑誌に寄稿しました。ただその当時私も映画に興味があって、徐々に短編映画を作ることになり、ジャ-ナリズムに割く時間がなくなってしまったのですが・・・。
 建築の仕事には、93年に第一回目の長編映画を作ったときまで携わっていました。短編を撮る中で製作に必要なお金は建築から稼いで、それを短編映画の製作につぎ込んでいました。両方出来たことはとても良かったと思っています。

 建築を学ぶことによって可能性が広がったと思います。さらに、いろいろな特定の考え方や視点がみつけられたと思います。たとえば風景の中、場所をどう選ぶか、どう使うか。また場所の中での人間の使い方や光、たとば設計図や建築デザインをするときに、建物の中にどう採光したらよいか考えますが、そのことについて映画も同様です。その点も映画と建築は関連性があると思います。ただし、映画のほうが建築より遥かに豊かな創造性があると思います。


■この映画を撮ろうと思ったきっかけは?
ひとつは、水没してしまった地域、またもうひとつにはすっかり閉鎖されてしまった村のことをニュースで知ったからです。クルドで起こっていることが、一般市民の人たちにどのくらい影響を与えているのか、それを伝えたかったのです。この問題を自分で知り、状況をわかっていながら無視するということができなかったのです。

過去二十年間にわたってダムが建設されていて、映画を撮ったときには完成に近い状態でした。このダムの建設のために、洪水という自然災害が起こるようになり、また人が強制的に立ち退かなければいけないという状況がありました。歴史や文化のある地域が消えてしまったのです。映画の最後のイメージで訴えたかったのは、ベルザンの村はもうないということなのです。


■劇場にご自身で交渉したなど、上映時も大変な状況だったそうですが、海外でも評価の高いこの作品を、ジャーナリズムサイドもシャットアウトしているのですか?
 劇場側が上映したらなにか暴動などが起きるのではないかと懸念したこともあります。実際にはそんなことはまったくありませんでしたし、劇場での上映時には多くの人が観に来た上、大変感動して帰っていきました。公の統制が何がしかの影響を及ぼしているのです。

またジャーナリズムに関して言えば、海外で受賞したこともまったく無視されました。トルコ映画としても海外での受賞は大きな成功だったと思うのですが、意図的に無視されたことがありました。わたしのスタンスとしては、こういう議論を引き起こすようなことはやりたくないのですが。


■現在アメリカとイラクは緊迫状態にありますが、隣国としてどうお考えになりますか?
 世界は、本当に不安定だと思います。中東諸国とイスラム圏の人間にとって、ますますこれから厳しい状況になっていくのではないか、また、何か悪いことが起こるのではないかという恐れを感じます。徐々にナショナリズムや民族排他的な動き、差別といったものが目立ちはじめています。実際、政府が難民受け入れのプログラムを、さらに厳しくしています。多くの人々にとって、将来喜ばしくない状況が起こるのではないかという不安があります。

 もうひとつ、こういった反民族主義や差別を大国が利用して、そこに利益を見出そうとして狙ってくるということもあります。テロリズムの危機を利用して、そこから利益を得ようとすることが心配です。


■映画を観ることによって、差別的意識を変化させることはできるのでしょうか?
上映されることによって、状況が明るみになり、国内及び海外でも議論されるようになったのが、第一に貢献できたことだと思います。弱冠ですが、ドアをひらくことが出来たのではないのかと思います。もちろん他の問題についても、こういった形で役立てていければと思ってます。そして何よりも、この問題を映画にしたことで、何か貢献できたという自覚が自分の中に出来てよかったと思っています。


■次回作についてお聞かせください。
 次の作品もまたアイデンティティの問題を取り上げものです。その中では、差別というものがある人が、人生の長い期間の中でどんなダメージを与えるのかということを描いています。差別によって人生をこわされ、自分自身の人生を作れないという状況を描いています。


■eigafan.comの読者にメッッセージを
どうぞみなさん、この映画を観てくださいね。
■『遥かなるクルディスタン』作品紹介はこちら> 20021018.html


<<戻る


東宝東和株式会社