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「要塞警察 デラックス版」

1月も下旬になり、一段と冷え込む中で家にこもってしまう日々になりがちです。部屋で見るDVDが「もうない!」ということになったときは、こんな隠れた傑作を観るのもいいでしょう。

アメリカ映画界の巨匠の一人であるジョン・カーペンター監督の初期の傑作である「要塞警察」がデラックス版で発売される。05年にはイーサン・ホークとガブリエル・バーンの出演でリメイクもされて「アサルト13 要塞警察」のタイトルで日本でも公開された。このことからも評価の高い作品であることが分かるだろう。



要塞警察 デラックス版

 移転を間近に控えた警察署にストリートギャングに追われる男が逃げ込んできたことにより、わずかな警察署の職員と移動前の囚人たちが協力してストリートギャングたちに立ち向かうストーリー(以前にビデオでの副題に「ストリートギャング大襲撃」と付いていたこともある)。カーペンター監督が大好きなハワード・ホークスの名作「リオ・ブラボー」に創意を得て、カーペンター監督流のオマージュを捧げた作品でもある。

次作の「ハロウィン」で、80年代以降のホラー映画の先駆者となり、「ハロウィン」が大ヒットしたばかりでなく、「13日の金曜日」などに大きな影響を与えることになるのだが、「要塞警察」で既にカーペンター監督らしい特徴がいくつも見受けられる。

 まず、無機的ともいえるストリートギャングたちの描写にそのことが顕著だ。性格描写もなく、ただただ冷徹に警察署を襲撃してくる。そのために不気味さが一層増しているのだが、「ハロウィン」の殺人鬼マイケル・マイヤーズもマスクを被り、何を考えているか分からない無機的な存在で、クレジットは”Shape”=物体だった。そして、音楽の使い方が秀逸だ。カーペンター監督は映画界でも珍しく映画音楽も作曲する監督だが、その音楽が当時はまだ珍しかったシンセサイザーによる音楽で、これまた無機的ながら独特なシンプルさを持ったカーペンター節とも呼ぶべきメロディーを持つ。今のデトロイト・テクノなどにも通じる音楽性でもあり、時間が経つにつれて音楽もより評価されるようになっている。「要塞警察」のテーマ曲を聴けば、そのことが分かるだろう。

 今作で有名なシーンにアイスクリーム販売カーにアイスクリームを買いに来た子供がストリートギャングに犠牲になるシーンがある。この子供の父親が警察署に逃げ込んだことでストーリーが動き出すのでとても重要なシーンだが、アメリカ映画では子供の殺害シーンは今もタブーとされている。近年の作品では、「シティ・オブ・ゴッド」でも同様のシーンがあったが、ブラジル映画であった。

 今回発売のデラックス版では画面がスクイーズ・ニューマスターであり、カーペンター監督の音声解説が入っている。日本のTV放映時の吹替音声を収録しているのは、今作のファンにはとても嬉しいだろう。吹替は何度も放送していたテレビ東京のものだと思われるが、日本では劇場未公開でテレビ放送でおなじみの作品なのだから。他にも特典でストーリーボードや撮影風景フォトギャラリーが付いている。この機会に、この傑作を十分に堪能してほしい。

TEXT BY わたなべりんたろう

【著者プロフィール】
映画・音楽・ファションのライター。雑誌「Elle Japon」、「映画秘宝」、「TV Bros」、「ミュージック・マガジン」、「CDジャーナル」などで執筆中。
ここ数年の作品では「トゥモロー・ワールド」をこよなく愛す。

2008年01月24日 22:14

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