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中東欧、新EU加盟国のドキュメンタリーFILM

 好景気の続くイギリス、特にロンドンにはEUからの出稼ぎ労働の外国人の姿が大変に多い。私の住んでいる地域はポーランド系の人たちが多い地区だということもあるが、日雇いの仕事を求める人たちが集まる通りには、毎朝、英語ではなく母国語で談笑する彼らの姿と声が響いている。
 そんな環境もあってか、家の近くの名画系映画館では、日本ではあまり観るチャンスのない、近々EU加盟国のドキュメンタリーフィルムフェスティバルが開催されるようだ。

ヨーロッパの現在を切り取ったドキュメンタリー


60年代ファッションも粋な『プラハ!』
 同じヨーロッパとはいえ、フランス、イタリア、ドイツ以外の国の映画、オーストリアやポーランド、チェコ、リトアニアなどの中欧、東欧の映画を観る機会は、実際、あまり多くない。日本でも著名(で個人的にも好き)な『デカローグ』『トリコロール』などの知られるクシシュトフ・キェシロフスキや今年日本で公開された60年代のチェコを舞台にした『プラハ!』のフィリップ・レンチなどは映画好きの間で知られてはいるが、シネマコンプレックスで上映されるのは、やはり大作やある程度のヒットが予想されるものが多いのだ。

 今回、ドキュメンタリーフェスティバルで上映されるのは、オーストリア、チェコ,ドイツ、ポーランド、そしてスロベニア、スロバキアの13作品。シリアスなものからコメディタッチのもの、90年代のものから最新作まで、幅広いラインアップである。

 個人的な注目作は、ポーランド生まれで現在はドイツ住まいの監督スタニスラフ・ミュシャ のもの。三部作のドキュメンタリーのうちの2作『REALITY SHOCK』『THE CENTRE』 が合わせて上映される。

ポーランドの森にUFOが着陸『REALITY SHOCK』

 2作目になる『THE CENTER』は「真のヨーロッパの中心はどこか?」を探すべく、中・東ヨーロッパ各地を2年間、旅して撮影したもので、「ヨーロッパのマイケル・ムーア」という、彼自身がひどく嫌う評価を得た作品でもあるという。最終作になる『REALITY SHOCK』は、2004年5月、新たに10カ国がEU加盟したその日、ポーランドのジャングルにUFOに乗ったエイリアン(ヨーロッパ人)が着陸するというところから始まる。どちらもユーモアにあふれる美しい映像ながら、拡大を続けるヨーロッパへの問題提起、旧共産国と西ヨーロッパの間にある経済格差や意識の違いなどを盛り込んだ深い作品だ。

 最近のニュースによると、夢を抱いて西ヨーロッパ入りしたポーランド人や新EU国が、結局は職にありつけずに帰国する例が多いという。ヨーロッパと一口にいっても、その文化や生活様式、国民性は別物。ミュシャの母国で失業率が20パーセントを越えるポーランドや、EUの拡大によって生活様相が変化した国々の抱える問題は「EUになれば生活が豊かになる」というような単純なものではないのだ。
 三部作を撮り終えた彼の次回作は、故郷であるポーランドはワルシャワで撮影される予定だそう。上映される機会はまだまだ少ないけれど、  華やかな西ヨーロッパの影になってきた、こうした国の映画に触れるのも、勉強の秋にはふさわしい、のかもしれない。


TEXT BY シラヤナギリカ

2006年09月28日 21:17

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