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伝説のロッカー、ロキュメンタリー  JOE STRUMMER-THE FUTURE IS UNWRITTEN

セックスピストルズと並ぶ、UKパンクロックの金字塔、The Clash・ジョー・ストラマーのキャリアと人生を追ったロキュメンタリー「JOE STRUMMER-THE FUTURE IS UNWRITTEN」。現在、イギリス国内で上映されている。

カンヌ国際映画祭でも上映され、話題に

 2002 年12 月22 日、一人の男がこの世を去り、彼と同時代を過ごした者だけでなく、 多くの者の内に何とも言い難い、穴のようなものをぽっかりと遺した。人々は元には戻ら ぬと知りながらその穴を埋めようと試みる。各地で焚かれたぼんやりと揺れる火の下、 人々は、彼に関する記憶の破片を拾い集めては、その穴にあてていく。


 「…ジョー・ストラマーさんが心臓発作で…」各国をめぐる訃報のモンタージュ、 「White Riot(白い暴動)」のヴォーカル・レコーディングシーンから、50 歳という若さで亡くなっ た一人のミュージシャンの生涯をロキュメンタリー(ロック・ドキュメンタリー)の監督 、ジュリアン・テンプルが追う。もはや追体験不可能なジョー・ストラマーという男の記憶を 記録する。もしくは、ジョー・ストラマーという記録から、記憶を蘇らせる。

 幼少時の映像、家族、外交官の父を持つ彼の各国での時間を思い起させるイメージ、カ ートゥーン(一時は漫画家になりたかったというジョー)、101'ers(ワン・オー・ワンナーズ) ステージのアニメーションによる再現、The Clash(ザ・クラッシュ) 時代、The Mescarelos(ザ・メスカレロス)時代、断片となった映像が、フラッシュ・バックの様に次々と切り替わっていく。

 なかには微笑ましい来日シーンも。ジョー自身のナレーション、ジョーの選曲によるラジオ番組、 そしてたくさんの友人達のインタヴュー。彼の目に映ったもの、耳にしたもの、過ごし た時代背景、人との繋がり方、それらのすべてがパンク・ロックという枠を越えた音楽への接し 方に影響していることがわかる。断片的な映像とジョーと同じ時間を共有した者の語り により、当時のジョーが置かれていた環境、葛藤までもがかいま見えてくるのだ。


THE CLASHのフロントマンとして

 バスキング(路上演奏)から始まり、スクウォッティング(無断居住)仲間で組んだパブ・ロック・バンド101'ers と、セックス・ピストルズとの対バンを機に、ジョーはパンク・ロックに転向し、 ミック・ジョーンズの誘いを受けてザ・クラッシュを結成する。 ザ・クラッシュとしての最初のスタジオ・ シーンの勢いの良さ。アンチ・ナチ・リーグ、ロック・アゲインスト・レイシズムなど 政治的活動も活発に行い、眠たい若者の目を覚ませた。50 年代以降のカウンター・カ ルチャーに対するパンク精神を生んだ。


 彼の死後、テムズ河の岸辺に焚かれた火を囲み集った友人達は、そこにジョーがいるかのように語 り合う。キャンプファイヤーはロンドンだけでなく、まるで聖火リレーのように各地で 焚かれ、その火に誘われるかのように、ジョーを語りに人々がやってくる。敢えてインタヴュイー紹介のテロップを入れなかったのが、ファンとの境界を引かなかったジョーのスタンスを意識してのことだとすれば、私たちもその火の下で、ジョーを語ることを許されているのだろう。

 ジョーを語る人々には、元クラッシュのミック・ジョーンズ、トッパー・ヒードン、ジョーの妻ルシ ンダ、娘のローラ、元恋人パルモリヴ、古くからの友人であるタイモン・ドッグ、ドン・ レッツ、ボノ(U2)、フリーとアンソニー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ボビー (プライマル・スクリーム)、コートニー・ラヴ…。 ミュージシャンに限らず、ジム・ジャームッシュ、ジョン・キューザック、マーティン・スコセッシ、スティーヴ・ブシェミ、ジョニー・デップ、ダミアン・ハーストもいる……。 誰もが皆、ジョー・ストラマーの人間臭さに惹かれているのだ。語り口がなんとも優しいのだ。

 今、改めて耳にする「I'm so bored with the USA」 はより、皮肉たっぷりに聴こえ、もはや I'm so bored with the London とも置き換えられそうなほど、ロンドンという都市は アメリカナイズされてしまった、とこぼす人々も少なくはない。EU 統合により豊かさを求めてロンドンに流れ込む大陸の人々、未だにロンドンに憧れを抱 きやってくる人々。かく言う私はおそらく後者なのであるが、ロンドンの持つ力の実体 は未だ掴めない。

 ジョーの死の約一ヶ月前にミック・ジョーンズがメスカレロスのステージに飛び入りで 参加し、再共演が実現している。そして、死の前日、奇しくも12 月21 日に投函されたであろうク リスマスカードが彼のなくなった日に友人達の元に届く。そこには連なる島々、キャン プファイヤーに集まる人々が…。

――光が強ければ強いほど、影は色濃く落ちる。



PHOTO、TEXT BY 木下知子
ロンドンでカメラマンアシスタントとして活動中

2007年06月26日 10:23

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