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注目のインディペンデント映画「Mu」登場!

インディペンデント映画を作り、その作品が認められる。ハリウッドサクセスストーリーの王道です。脚本家、監督、俳優、あらゆる人々がいつの日かの成功を夢見て凌ぎを削るインディペンデント映画。しかし、毎年星の数ほど作られるインディー映画の殆どは、殆ど脚光を浴びることなく消えていきます。そんな中でひときわ異彩を放つ短編映画「Mu」が、ハリウッドでちょっとした話題になっています。この映画、その内容がちょっと日本がらみ。インディペンデントながら、ユニバーサル・スタジオ内の劇場における試写会へとこぎつけるという異例の事態になりました。それでは、その気になる内容を、作品の魅力やキャスト達と合わせて独占レポートしてみたいと思います。アメリカ・日本・オーストラリア・ブラジルといった、国際色豊かなスタッフによる本作品は、様々な点で波紋を投じることになりそうです。
タイトルの「Mu」は、日本語で言う「無」。日本の伝統芸能である落語の一話「粗忽長屋」をモチーフに描かれた物語です。ドラマ「タイガー&ドラゴン」の第9話にも登場したこのお話、ご存知の方も多いかもしれません。監督であるポール・ヤコノは舞台を現代のロサンゼルス・ダウンタウンに置き換え、”Who am I?” 「自分は何者なのか?」というユニバーサルなテーマのもと、一個人のアイデンティティーに迫るストーリーへとアレンジしました。

主人公の誠至(Seiji)は、手彫りの刺青彫師。この物語の中で、己のアイデンティティーと肉体の狭間で葛藤します。自分はいったい誰なのか、そして異文化の中で日本人として生きることとは?沸きあがる欲望と、それを拒否しようとする意志。衝撃のクライマックスでは、自分の運命と向き合わざるを得ない状況に追い込まれてゆく…。

「Mu」の監督・脚本を担当したのはオーストラリア出身のポール・ヤコノ。渡米以前は、母国でコマーシャル・フォトグラファーとして活躍。本作は、彼にとっての監督デビュー作となります。その出来栄えは、ファインダーを通して培ってきた感性が十二分に発揮されています。また、彼はオーストラリアでは良く知られたバンドのメンバーだったとか。昔の仲間達による、無国籍な雰囲気のオリジナル挿入曲は必聴です。

DP (Director of Photography) =撮影監督は、ダン・ニース。その名前は、アメリカの100以上もの映画にクレジットされています。それもそのはず、彼はステディーカム技師としてのパイオニア。1982年より、ステディーカム(身体に装着して撮影するカメラ)を発明したギャレット・ブラウン氏に師事し、今日では最も有能なステディーカム・オペレーターのひとりとして高い評価を受けています。皆さんもご存知の、クエンティン・タランティーノやデヴィッド・リンチのオペレーターとしても活躍中です。

舞台装飾担当は、J.C. ブラウン。「ラストサムライ」(2003)や「SAYURI」(2005)、そして「硫黄島からの手紙」(2006)など、近年のアメリカ映画において日本文化を表現するには欠かせない一人。20年にも及ぶ日本での滞在を通して、アジア・日本史を学び、さらに書道も習得。そういった彼の経験が、本作でも現実的かつエキゾチックなデザインを提供しているはず。「Mu」の中では、細部に渡る小道具もほとんど彼の私物だそうで、壁一面が装飾された和室は特に見もの。

主演、誠至を演じるのは竹内豊。岐阜県多治見市の出身。2000年の渡米以来、アメリカで俳優として活躍。彼が一時帰国した際、たまたま出会った「落語」を映画化してみることを直感的に思いついたそうで、いわば本作の発起人。主演のみならず、日本語部分の翻訳や、監督・キャスト達と脚本を練り上げていく過程にも全面的に携わったとのこと。「ラストサムライ」「硫黄島からの手紙」、そして先日ゴールデン・グローブ賞とSAG賞をW受賞した”Grey’s Anatomy” (ABC)にもゲスト出演の経験あり。

誠至の親友、グスタヴォ役にはネト・デポーラ・ピメンタ。誠至とともに「Mu」のストーリーをリードする、もうひとりの重要なキャラクターを演じています。彼は、日本から見て地球の真裏に位置するブラジルの出身。本作では、エグゼクティブ・プロデューサーも兼ねています。ハリウッドにあるシアター、ファイト・クラブで定期的に舞台を踏み、先日のSAG賞でアンサンブル・コメディ部門を獲得している”The Office” (NBC)にもゲスト出演した経歴の持ち主です。

「Mu」は、欧米で「落語」をテーマにした初の作品。また、日本の手彫りを改めて世界に紹介している短編映画でもあります。抽象的でありながら、鋭い心理描写を描いた本作品には、観る者を捕らえて離さないパワーを感じます。ワールドプレミア上映は2月19日の予定。23分間に収められた映像に、観客達がどのような反応を見せるのか?筆者も必ず足を運び、結果をいち早くお伝えしたいと思います。下記の公式ホームページでは、製作風景のスナップ(「反映」をクリック)や予告編(Quicktime 7.0以降のバージョン)が視聴出来ます。尚、試写会に興味を持たれた方々は(会場はノース・ハリウッドになります)Eメールを通してご予約下さい。2回の上映を予定していますが、席に限りがありますのでお早めに!

「Mu」公式ホームページ
予約用アドレス:info@muthefilm.com

TEXT BY アベマリコ

2007年02月09日 18:06

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