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2007年12月20日

イスラエル発『迷子の警察音楽隊』&フランス発『ペルセポリス』

第60回カンヌ国際映画祭をはじめ世界中の映画祭で絶賛され、いよいよ今月、日本で公開される、
イスラエル発『迷子の警察音楽隊』と、イランを舞台にした『ペルセポリス』。
イスラエルもイランも私たちには遠い国というイメージがありますが、いつの間にか国や歴史や民族を飛び越えて、とても身近に感じ、共感を覚える、そんな魅力に溢れた物語です。
人恋しさ、大切な家族への思い、未来への希望・・・そんな思いをユーモアラスにあたたかく描き、その普遍性に気づかせてくれる、話題の2作品をご紹介します。

■『迷子の警察音楽隊』

文化交流のためにイスラエルに招かれてやってきたエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊。が、なぜか空港に出迎えはなく、辺境の町に迷い込んでしまいます。そこで食堂の美しい女主人に助けられ、地元民の家で一泊させてもらうことに。

でも、相手は言葉も宗教も違い、しかも彼らアラブ人と長年対立してきたユダヤ民族。空気は気まずく、話はまったくかみあいません。しかし、一人が「サマー・タイム」を口ずさんだ時、その場の空気が変わってゆき、忘れられない一夜がはじまるのでした・・・

○34歳の新鋭監督エラン・コリリン、長編映画監督デビュー作

脚本家としてキャリアをスタートし、本作では脚本も手がけています。
イスラエル映画界を代表する名優サッソン・ガーベイとフランスでも活躍するベテラン女優ロニ・エルカベッツを主演に迎え、ユダヤの地にアラブ人が迷い込むという、いかにも政治的な設定から、人々が対話すること、お互いをわかりあうことの素晴らしさを描き出し、世界中の映画祭で賞賛されました。
そのメッセージは、イスラエルを席巻し、カンヌを魅了して、今度は海を越え世界へ羽ばたいたのでした。

公式サイト

○DATA

・カンヌ国際映画祭 ある視点部門“一目惚れ”賞/国際批評家連盟賞/ジュネス賞 受賞
・東京国際映画祭 東京サクラグランプリ(最優秀作品賞) 受賞
 その他映画祭にて多数受賞
12月22日より シネカノン有楽町2丁目、川崎チネチッタほか全国ロードショー
2007年/イスラエル=フランス合作/87分
配給:日活


■『ペルセポリス』
舞台は、1970年~90年代の激動のイラン。愛に恵まれ、自由な気風の家庭に育ったマルジは、言いたいことも言えなくなっていく不自由な社会に反抗心を持ちながらも、どんな時でも生きる勇気とユーモアとロックを忘れません。そんなマルジの成長が、母娘3代にわたる心豊かな交流を軸に、斬新なアニメーションで描かれていきます。

○モノクロームの奥深さと豪華なボイス・キャスト

監督のマルジャンが「グラフィック・ノベルが世界的に成功したのは、画が抽象的でモノクロだったから。世界中の誰もが関係のある話だと思えることに役立った。もしこれが実写映画だったら、自分たちとは顔つきが違う人物が住んでいる遠い国の話だと思われてしまって。」と語るように、身近な物語として感動を与えるのは、モノクロームのアニメーションだからこそ。斬新な映像とシンプルな線が描く魅力的な人物の表情や動きは、アニメーションならではのユニークかつ強いインパクトを与えます。

さらに、マルジの声にキアラ・マストロヤンニ、母親役にカトリーヌ・ドヌーヴという、実の母娘の共演が実現。そして何といっても祖母役のダニエル・ダリュー。ドヌーヴの母親役を何度も演じ、定番とドヌーヴが語るほど縁深い関係でしたが、孫のマルジとの語らいは心に深く沁み入ります。

公式サイト

○DATA

・カンヌ国際映画祭 コンペティション部門審査員賞 受賞
・アカデミー賞 外国語映画賞 フランス代表作品
 その他映画祭にて多数受賞
12月22日よりシネマライズほか全国にて順次ロードショー
(c)2007. 247 Films, France 3 Cinéma. All rights reserved.
2007年/フランス/95分
配給:ロングライド

投稿者 eigafan : 16:05 | トラックバック

2007年12月10日

カナダ発『チャプター27』

1980年12月8日…それは、ジョン・レノンがマーク・デイヴィッド・チャップマンに射殺された日。
『チャプター27』は、現在もアッティカ刑務所に収監されているチャップマンに、200時間にも及ぶインタビューを敢行した「ジョン・レノンを殺した男」を原案に、彼がレノン殺害に至るまでの3日間の経緯を克明に描いた衝撃作です。

■STORY
1980年12月6日、ニューヨーク。1人のジョン・レノンファンである、マーク・デイヴィッド・チャップマンが空港に到着。彼の目的はただひとつ、ジョン・レノンを殺害すること。空港から、数ヶ月前にも訪れたレノンが居をかまえるダコタハウスに直行し、レノンとの接触を狙ってひたすら待ち続けるチャップマン。
そして、ニューヨークへ来てから3日目の朝、彼は「今日が実行の日だ」という想いを抱き…。

公式サイト

■ J・P・シェファー監督の想い

マーク・デイヴィッド・チャップマンがジョン・レノンを殺害するまでの3日間を、彼の心理に肉薄しながら描いた本作。自分の内なる悪と葛藤し続けた、狂気の中に見え隠れするチャップマンの肉声を交えながら、物語はいたってシンプルに綴られていきます。

この手法についてJ・P・シェファー監督は、「ライ麦畑でつかまえて」の構造にインスパイアされたとのこと。



(c)Seiji Fujimori

「ライ麦畑でつかまえて」の冒頭にも、「母親や父親、両親が僕の生まれる前にやっていたこととか、色んなことを知りたいだろうけど、僕は何も話すつもりはない」というセリフがあり、それを脚本へ採用したそう。

そして、ジョン・レノンの音楽とJ・D・サリンジャーの著作からは常に強烈な影響を受けてきたという監督だからこそ、同じようにジョン・レノンの音楽を聴き、サリンジャーの本を読んだ人間が殺意を抱くことが理解できなかったと言います。

「だから私はこの映画を通して、その男を追いかける」…この想いを胸に作られた『チャプター27』は、チャップマンの行動と心理をまっすぐに見つめた、サスペンス色をも含む作品に仕上がっています。

■映画から観る事件にまつわるキーワード

●ダコタハウス
ジョン・レノンが妻オノ・ヨーコと息子のショーンと住んでいた、アッパー・ウェスト・サイドの建物。1980年当時から、彼を一目見ようと外で待つ熱烈なジョン・レノンファンたちの姿がありました。妻のオノ・ヨーコは今もここで生活しています。

●「ライ麦畑でつかまえて」
1951年に発表された、ジェローム・デイヴィッド・サリンジャーの代表作。全26章からなる青春小説。
成績不振で高校を退学となった主人公ホールデン・コールフィールドが寮を飛び出し、実家へ戻るまでの3日間にニューヨークをさまよう話。チャップマンの言動と、同小説中のホールデンの言動には類似点が多数あります。
例えば、ニューヨークで過ごす3日間、クリスマス前の月曜日、セントラル・パークのアヒルの話(チャップマンは、小説の中でのホールデンと同じように「セントラル・パークのアヒルは池が凍る時期、どこに行くか知ってる?」とタクシーの運転手に質問をします)など。
チャップマン自らが意識して真似ている部分もありますが、獄中のインタビューでホールデンと自分の間には、200に及ぶ偶然の一致(シンクロニシティ)があると語っています。

●「ダブル・ファンタジー」
1980年11月にリリースされたジョン・レノンとオノ・ヨーコによるアルバム。ジョンにとっては、このアルバムは遺作となってしまいました。ジャケットは、写真家の篠山紀信によるもの。チャップマンは、犯行直前にこのアルバムにレノン本人からサインを貰っています。

■DATA

12月15日(土)、シネクイントほか全国ロードショー
2007年/カナダ/85分
配給:アスミック・エース

(C)2006 PA Fade In Films,Inc.

監督・脚本:J・P・シェファー 
出演:ジャレッド・レト/リンジー・ローハン/
ジュダ・フリードランダー ほか

投稿者 eigafan : 12:26 | トラックバック