« 『フロスト×ニクソン』~舞台から映画へ~ | メイン | 『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』~秘密と嘘~ »

『フロスト×ニクソン』~2人の栄光と凋落の歴史を築いたテレビの力~

プロダクションノートをご紹介するこのコーナー、
今回も現在大ヒット上映中の『フロスト×ニクソン』から。
 
2人の栄光と凋落の歴史を築いたテレビの力

 劇作の過程で、脚本のピーター・モーガンは、テレビがフロストとニクソンの公的な性格をどのように作り上げたかについて徹底的な調査を行った。そこで彼が発見したのは、いかにテレビが決定的な影響力を持ち、それを2人の男がいかにうまく利用したかという点だった。

 権力の座をめざすニクソンにとって、当初、テレビはかけがえのない同盟者だった。1952年9月、ニクソンはテレビ・カメラの前で感情的な自己弁護(チェッカーズ・スピーチ)を行い、共和党副大統領候補の立場を脅かす倫理スキャンダルを見事に乗り切った。さらに1954年3月、副大統領だったニクソンは、テレビ中継された陸軍対マッカーシーの公聴会で名演説を行い、名を馳せた。

だがテレビは、永遠にニクソンの友ではなかった。1960年の大統領選でジョン・F・ケネディを相手にテレビ討論を行ったとき、カメラの前でダラダラと汗をかいたニクソンは、冷静で颯爽としたケネディのテレビ映りの良さの前に、完膚無きまでに敗れたのだ。このときの苦い教訓は、その後の大統領時代に生かされることになった。1968年の大統領選に勝利して第37代合衆国大統領に就任したニクソンは、苦心してテレビ映りをよくし、つとめて近づきやすい印象を与えようとした。その試みは成功し、ニクソンは二期にわたって盤石の政権を築き上げたかに思えたが、1972年6月に発覚したウォーターゲート事件によって、ニクソンは2年後の辞任に追い込まれていく。

 盗聴器設置の失敗に端を発するウォーターゲート事件の詳細を報じる過程で、テレビは、同事件の捜査に絡んでニクソンが犯した司法妨害と権力の乱用の罪業を、国民の頭にしっかりたたき込む役目を果たした。そのせいで、ニクソンの二期にわたる在任中の成果は影が薄くならざるを得なかった。しかし、1974年8月9日の大統領辞任から月日が流れ、次第に人々の記憶から罪の詳細が薄らいでいくにつれて、この元大統領は、自分の業績をアピールするための方策を探し始めた。時には友となり、時には敵となったテレビのインタビューに、もう一度だけ自分の運を賭けてみることにしたのだ。とはいえ、抜け目のない彼は、自分で戦いの基本ルールを決め、できるだけ弱小な人物を対戦相手として選ぶことに決めた。そして選ばれたのが、デビッド・フロストだった。

 イギリス人のデビッド・フロストは、1960年代に若きコメディアンとしてテレビの仕事を始め、BBCの風刺的な疑似ニュース番組「That Was the Week That Was」の司会者として一躍人気者になった。その後、攻撃的なインタビュー番組「The Frost Programme」を成功させた彼は、イギリスでヴァラエティ番組の司会を続けながら、アメリカでもセレブをゲストに招いたトークショー「The David Frost Show」のホストをつとめることになる。リチャード・バートンからローリング・ストーンズまでの多彩なゲストを招いたそのショーは、1969年から1972年まで地方局のシンジケートで放映されるが、打ち切りを宣告されたとき、フロストは自分を雇ってくれるアメリカの他の放送局を見つけることができなかった。

 結局、ネットワーク進出の夢が叶わないままアメリカから退場することになったフロストは、オーストラリアでセレブのトークショーを続けながら、アメリカの放送界に再チャレンジするチャンスを狙っていた。彼がリチャード・ニクソンのインタビューの企画を思いついたのは、そんなときのことだ。企画を実現するにあたり、フロストは、自分がこの仕事に適任であることをたくさんの人々にアピールしなければならなかったが、皮肉なことに、彼の「軽量級」というの評判のおかげで、ニクソンはインタビューを承諾する気になったのだった。
 
 1977年5月、フロスト×ニクソンのインタビュー特別番組が4夜にわたって放映されたとき、ニクソンのカリスマ性が顔のクローズアップによって減少し、彼がプレッシャーのせいで告白へと導かれたことを、誰よりも先に理解したのは政治家たち自身だった。その瞬間から、テレビは被写体のメッセージを伝えるばかりでなく、それにも増して人格を伝えるために使われるようになる。このようなメディアの成熟と、テレビの政治への影響は、脚本家のモーガンが作品の基本線に取り入れたものでもあった。モーガンは、このストーリーを紡ぐに当たって、すべてのものを等価にしてしまうテレビの力を鋭く意識した。

彼のストーリーの中で、2人の男たちは、破滅あるいは復活という命運を賭けてサイコロを振り、持てる力すべてをそこに費やす。ニクソンは、弁護士あるいは政治家としての豊富な技能を。フロストは、他人に心を開かせ、告白を引き出す能力を。そして、こんな対決がテレビにぴったりと似合ったのだ。

それぞれの思惑を胸に、テレビカメラの前に立ったフロストとニクソン。
表と裏で繰り広げられる息詰まる駆け引きを、ぜひスクリーンでお楽しみください!

【フロスト×ニクソン 公式サイト】

TOHOシネマズ シャンテほか全国大ヒット上映中!
(c)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

2009年04月02日 16:01

この記事へのトラックバックURL:
http://blog.eigafan.com/cgi-bin/mt-tb.cgi/1441

 
東宝東和株式会社