メイン | 2006年05月 »

2006年04月19日

チェコ発『プラハ!』

“魔法の都”と呼ばれる町並みを持つ、チェコ・プラハ。世界遺産にも登録されているこの町は、今や他の都市では見られなくなってしまった古き良きヨーロッパの重厚な魅力を静かに守り続けています。そんな町の名を冠した恋愛映画『プラハ!』をご紹介します。

■  STORY
舞台は1968年のチェコスロヴァキア。社会主義体制の下にありながら民主化が進み、後に“プラハの春”と呼ばれる、のどかな時代を迎えていた頃。ドイツ国境近くに住む3人の女子高校生テレザ、ブギナ、ユルチャは卒業を控え、恋の予感に胸を躍らせる日々。そんな彼女たちの住む町へ、軍隊を脱走した3人の若者シモン、ボブ、エマンがやってくる。実は彼らは自由を求めてアメリカへ亡命しようと、国境越えの列車が来るチャンスを狙っていたのだ。しかし偶然出会ったテレザとシモンは、一目で恋に落ちてしまう。それぞれの友達も交えての遊園地でのデートなど、共に過ごす時間を重ねた2人。果たしてこの恋の行方はどうなるのだろうか?

公式サイト>http://www.praha-movie.com/


■  華やかなミュージカルシーンに注目!


本作の監督フィリプ・レンチは、FAMU(プラハ芸術アカデミー映画学部)という世界最古の映画学校で学んでいました。CMディレクターとしても名高い彼は、60年代当時チェコで流行していたポップアートのような幾何学セットを用いて、カラフルで可愛いレトロ・ファッションとキュビズム・デザインを見事に融合させています。キュビズム・デザインというのは、フランスのキュビズムから来て、戦前にチェコ特有の建築デザインとして定着したもの。60年代のチェコ映画黄金期を思わせるスタイリッシュでカラフルなダンスシーンの中にそれを再現し、国民の幅広い支持を得ました。

夢と現実がオーヴァーラップするシーンの中で次々と展開されるダンスはとても楽しいもの。雨のシーンでパラソルを使ったミュージカルと言えば、『雨に唄えば』(‘52)を思い浮かべる人も多いはず。劇中にはこの『雨に唄えば』への監督のオマージュと思われるシーンも登場。パラソルに赤・黄・緑といった鮮やかな色使いを加えて、ダンスシーンに仕上げるあたりはミュージック・クリップ作品も数多く手掛けるレンチならでは。
“輝けるダンス”と“プラハの春”という明と暗を巧みに物語に織り込み、『プラハ!』は映画としてもヒットを収めましたが、サウンドトラックも大ヒットを記録。今日に至るまでチェコ史上最も売れたCDとなりました。チェコ国内の映画賞であるチェコ・ライオンアワードで衣装賞と作曲賞を受賞し、ピルゼン・フィルムフェスティバルでは最高観客賞を受賞。関連本やミュージカル版も人気を博しています。


■  映画から観るチェコ
★プラハの春
1968年の春から夏にかけて、チェコスロヴァキアで起こった改革運動。社会主義体制下、ドプチェクによって推し進められた自由化政策により、チェコに明るい時代が訪れました。しかし、自由を求めるチェコスロヴァキアに危機感を抱いたソ連・東欧軍の介入によって、弾圧されてしまいます。その改革運動のことを、“プラハの春”と呼びます。

★ビール
世界中でもっとも飲まれているタイプのビール、ピルスナービールはチェコの町ピルゼンが発祥地。ホップのきいた爽快な飲み口の淡色ビールで、飲むと香ばしさが広がります。ピルスナー系は現在、日本でも一番飲まれているタイプのビール。本作では物語の随所でビールを飲むシーンが登場していて、チェコ人の生活にはビールは欠かせないものだということが分かります。今でも1人当たりのビール消費量は世界一だそう。

■  DATA
4月29日(土)より、渋谷Q-AXシネマにてレイトロードショー
(以降、大阪、京都、神戸、名古屋他にて順次全国公開)
2001年/チェコ/110分
配給:アンプラグド

製作:フランチシェク・ヤンダ
監督:フィリプ・レンチ
脚本:ズデニェク・ゼレンカ
出演:スザナ・ノリソヴァー/ヤン・レーヴァイ/ヤロミール・ノセク/アルジュビェタ・スタンコヴァー/
アンナ・ヴェセラー/ルボシュ・コステルニー

投稿者 eigafan : 13:05 | トラックバック

2006年04月07日

ロシア発『大統領のカウントダウン』

名作『戦争と平和』に代表されるように、旧ソビエト連邦時代から文学的でお堅いイメージがあったロシア映画界ですが、どうやら流れは変わってきたようです。ハリウッド顔負けのアクション大作『大統領のカウントダウン』で"露流エンターテインメント"の新時代が到来!

■  STORY
大統領のカウントダウン2 軍事活動でチェチェンの捕虜となったアレクセイ・スモーリン少佐(アレクセイ・マカロフ)は、激しい拷問に遭い、モスクワでの爆破テロに関わったと偽証させられてしまう。この偽証テープがチェチェン独立軍によって利用されれば、FSB(ロシア連邦保安局)は各国政府から糾弾されることになる。スモーリン少佐は反撃のときを待っていた。消え入りそうな心の奥底で、闘争心を研ぎ澄ませて。砂漠ではイスラム過激派「アンサール・アラー」の訓練キャンプが行われていた。来るべきローマ・サミットに向けて、チェチェン独立軍と手を組んだ「アンサール・アラー」は未曾有のテロ計画を実行に移そうとしていた…。

公式サイト>http://www.count-down.jp/index.html


■  ロシア軍が全面協力した史上初のロシアン・アクションムービー
大統領のカウントダウン1 これまで文芸大作を世界に発表し続けてきたロシア映画界に初めて登場した娯楽アクション映画、それが『大統領のカウントダウン』。製作関係者が「若かった頃に熱狂したダイ・ハードのような映画を作りたかった」と語っているように、映画に対する情熱がハリウッド顔負けのアクション超大作を誕生させました。ロシア政府が協力し、軍事力を惜しげもなくスクリーンに導入、リアリズムあふれる戦闘シーンが生々しくカメラに収められました。そのリアリズムは、製作陣のこだわりにも反映され、シナリオはプーチン、ブッシュ、ベルルスコーニら国際リーダーを念頭に置いて書かれ、劇中のサーカス小屋のシーンは、2002年10月に実際にモスクワで起きた人質テロ事件をモチーフに作られています。テロの残虐性を描くことで、映画を通じて観客に戦争という現実を直視させる。『大統領のカウントダウン』が持つ圧倒的なリアリティーは、製作側の「国民を守った人たちの苦難と戦う姿を見てほしい」という強い意思によって生まれたのです。

  ロシア映画の新時代到来は、国や資本家をも動かしました。30代の新世代映画人の製作意欲に応えようと、企業家、実業家、銀行家らの有志たちが資金を提供し、ロシア史上最高となる700万ドルの制作費を投入しました。また、戦闘機、ヘリコプター、輸送機、装甲車など軍事機材はロシア軍が全面協力して提供しています。戦闘シーンの圧倒的な迫力は、莫大な資本と本物の軍事機材なくしては再現できなかったのです。


  『大統領のカウントダウン』のヒットで現在知名度が上がっているのが、スモーリン少佐を演じるアレクセイ・マカロフです。1972年2月5日生まれのアレクセイは、先に本作がヨーロッパで公開されたときに「ロシアのブルース・ウィリス」と呼ばれましたが、「自分のイメージがスーパーヒーローとして観客に定着されたくない」と語る本格派俳優。本国での目下の最新作『TREBUETSA NYANYA』は、モスクワに住む若い夫婦の話しだそうです。

■  映画から観るロシア
  ソビエト連邦の時代、映画は国の統制下で作られており、検閲も厳しく中には政治的な弾圧を受けた監督もいました。ソ連崩壊後は西欧のロック・ミュージックに続いてハリウッド映画が流入。国民はスケールの大きなアクションやバイオレンスが中心のハリウッド映画に目を奪われたといいます。そのハリウッド映画の影響下にあるのが現在の30代の若い映画人たち。彼らは「9・11」を筆頭とするテロが横行する現在の世相と、自分たちがハリウッド映画で見た夢を結びつけます。『大統領のカウントダウン』はロシア映画のニューウェイヴであり、ロシア国民にとっての"現実"なのです。

■  DATA
2004年/ロシア/111分
配給:シナジー/エイベックス・エンタテインメント

製作:セルゲイ・グリプコフ
監督・脚本:エヴゲニー・ラヴレンティエフ
撮影監督:スタニスラフ・ラドゥヴァンスキー
出演:アレクセイ・マカロフ/ルイーズ・ロンバード/ヴァチェスラフ・ラズベガーエフ/ジョン・エイモス

投稿者 eigafan : 18:24 | トラックバック